「おやおや、もう雪が積もっているのに」
ある冬の日の夕暮れ時に、大きな袋を背負った男は道端で泣く少女と出会った。
「お嬢さん、こんな所にお一人で……一体どうしたんですか?」
「わからない。弟とはぐれてしまって、気がついたらここにいたの」
「なるほど……それは大変だ。寒くはないかい?」
「平気よ。わたし、雪ん子……雪女の子どもだから」
「へぇ、そうなんです――えぇ!?」
少女の発言に驚いて、男は素っ頓狂な声を上げた。
「この森の奥にわたしたちの家があるんだけど、お外で遊んでいるうちに、知らないところまで来ちゃったみたいで……お、弟が……いなくなっ……」
「あぁ、泣かないでください、お嬢さん。ボクが一緒に探してあげるから」
男は、ポケットの中からチョコレートを二つ取り出し、少女の手に握らせた。
「一つは君の分、もう一つは弟くんの分。見つかったら食べるといいよ」
少女はチョコレートを受け取ると、パアっと笑顔になり、男を見上げて「ありがとう!」と言った。その少女の頭を、男は優しく撫でる。
「わぁ、雪女は頭も冷たいんですね」
「え、おじさん、わたしに触っても凍らないの?」
「おじ……。えぇ、『おにいさん』も、少し特別ですからね」
少女は、興味津々で男を見つめた。長い前髪でどんな顔をしているかは分からない。でもきっと、とても優しい顔をしているのだろう……そう思った。
「さぁ、雪が降り始める前に、弟くんを探しに行きましょう」
「うん!」
男は、少女の冷たい手を引いて、森の奥へと消えていった。
袋の中身が蠢いたことを、少女は知らないまま――