聖夜にきっと雪が降る
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私は寒いのが苦手だ。今年の冬は例年より暖かいといっても、寒いのは寒い。中々降らなかった雪が、ようやく降りだし、私はその寒さに身を縮めていた。
放課後の帰り道、私は恋人の優馬と一緒に歩いている。大学受験が迫っているので、会える時間は限られている。田舎町に住んでいるので、デートするには隣町にでなくてはいけないので、最近はあまり一緒には出掛けていない。だから、たとえ寒くても、この時間は私にとって大切なものだ。私は、コートのポケットに手を入れ、寒さに震えながらも、優馬との会話を楽しんだ。
「あれ? 陽菜、手袋は?」
「どこかに、忘れちゃったみたいなの」
優馬が、私が手袋をしていないことに気づく。寒いのが苦手なくせに、おっちょこちょいの私は、よく手袋を忘れてしまう。
「寒いの苦手なのにね、大丈夫?」
「ポケットに、手入れてるからなんとかね」
私がそういうと、優馬は少し考えて言う。
「陽菜、手貸して」
そういって、優馬は私に手を差し出してきた。私は、震えながらもその手をとった。
「こうすれば、暖かいよ」
優馬はその繋いだ手を、優馬のコートのポケットに入れてくれた。
「ほんとだね……。暖かいね」
主に心が。
「でしょ? 僕の手は暖かいんだよ」
本当は感謝しているが、私は少し意地悪になってみる。
「手が冷たい人は、心が優しい人っていうよね。じゃあ、優馬は優しくないんだ」
全然、そんなことないけどね。
「あーあ。陽菜そんなこと言うんだ。そんなこと言う人にはもう優しくしないよ」
もちろん、優馬も本気じゃない。目が笑っている。私の冗談に付き合ってくれているだけだ。
寒い冬も、優馬と一緒なら乗り越えられる。何より、心が暖まるから。優馬のコートのポケットの中で、繋がれた2人の手。私はその手により力をこめて、その気持ちを伝えた。
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