12月14日の、中学生になって初めて迎えた雪の降る夜。
僕は初めて言いつけを破って真夜中の外に出た。
寒すぎて歯がカチカチと音を立てて震え、外気に直接晒されている耳はもうすでに寒さで真っ赤になっていた。寒さに震える僕の姿は、きっと傍から見たら壊れた携帯のバイブレーションさながらだったことだろう。
「ヴッ、ヴヴヴヴ、ざぶい……ど、どごがっ、あっだがいどごろ……」
鼻水が少し凍り始め、あと数分も耐えきれる気がしなかった僕は、寒さから逃れられそうな場所を探す。だが、僕の住んでいるこの辺鄙な田舎町にはそんな都合の良い場所などなく、都会に蔓延っているコンビニだなんてユートピアも無かった。
このまま凍死してしまうんじゃないか、ああ調子に乗って外に出てくるんじゃなかったと後悔し始めた矢先――
「あら、どうしたの? 子供がこんなところで。たった一人で」
背後から女性の声が聞こえた。
「ほぁい!? あ、え、えっとその、家出というかなんと言いますか!!」
驚きながら勢いよく振り向くとそこには、白いワンピースを着た黒髪ロングの美しい大人の女性がおり、思春期真っ盛りの僕にとっては大輪の花と評しても良いほどの顔とスタイルだった。女性は柔和な微笑みを浮かべて、甘い声で僕に話しかける。
「そう、家出してきたのね……でもどんな状況でも子供が一人で深夜に外に出るなんて感心しないわ」
「ご、ごめんなさい……」
「全く……でもきっと理由があるんでしょう? 貴方みたいな年頃にはよくあることだし……もし困っているなら今晩だけ泊めてあげましょうか?」
「え! ほ、本当ですか!!」
僕は女性の突然の提案に食いついた。
「えぇ勿論。一泊くらいどうってことないわ。私の家はこっちにあるから、ついておいで」
「はい!!」
女性は僕の手を握り、優しく引いて行く。女性の手は手袋越しでも分かるほど冷たく、そして硬かった。
――僕はそこでようやく女性の異常さに気が付いた。
背筋が凍るほど恐ろしくなった僕は女性の手を振りほどこうとしたが、まるで機械に固定されたかのように微動だにしなかった。それでも無我夢中になって暴れていると、運が良いことに手袋がすっぽ抜けて自由になった。
僕はその勢いのまま弾けるように雪道を走って家へと向かった。最後に女性が何かを言った気がしたが、死にもの狂いだった僕は上手く聞き取ることはできなかった。
そこからの記憶は曖昧で、気付けば情けなく僕は泣きじゃくっていて、両親に宥められていた。
あの出来事から数日が経ったある日、僕は新しい手袋をはめて大粒の雪が降る中、学校へと向かっていた。その道中、雪道に黒い何かが落ちており、誰かの落し物だと思った僕はそれに近付いた。
「これ……僕の――」
それは、僕があの日に失くしたはずの手袋だった。
背後から、声が聞こえる。
「見 つ け た」