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活動報告

変装者の逃走。

 介護士が老婆を車椅子に乗せて先進科学研究所の正門に差し掛かった時であった。突然、得体のしれない動物が飛び出してきて、ゴーンとぶつかった。牙で車輪をひっかけたので老婆は道路をころころと二メートルほど転がった。介護士は車椅子のハンドルをしっかりと握ったまま宙を舞って、地面に腰から落ちた。通りかかったタクシーが急ブレーキをかけて止まった。運転手は老婆をひく寸前で会ったので車から直ぐに降りて来て、老婆を助け起こした。
「たしか、イノシシと違いましたか。」と老婆は言った。タクシーの運転手は逃げ去った動物の方角を見詰ながら、携帯電話で警察に連絡した。介護士は道路で腰を痛打したようで立ち上がったものの足元がふらついていた。それでも飛ばされた車椅子を手元に戻して、老婆に声掛けして元の状態に戻した。
「どうも、ありがとうございました。」介護士はタクシーの運転手に礼を言った。
「もう、ちょっとで巻き添え事故になるところでしたわ。」運転手は危機一髪だったことを強調した。
 老婆は痩せていたが、小柄で身軽だったからか、うまく転がって打ち身もなく元気であった。
「久しぶりに野生のイノシシをみましたな。私の生まれたところは山奥でしてな、小さい頃はイノシシを何回もみてますのや。畑のサツマイモやトマトまで食べられましてな。町で住むようになってからは滅多にイノシシと出会うことなどなかったのに、こんな年になって、イノシシに当て逃げされるとはおもってもいなかたですわ。」と言って、運転手と介護士を笑わせた。この事件の後、先進科学研究所で奇妙な噂が立ったのである。ゲノム編集の研究者の某氏が行方不明になったのである。彼は、ゲノム研究の将来において人間が自由に変装できるかもしれないと同僚に話していたという。人間が豚になるかもしれないと?

2017年 01月03日 (火) 18:18|コメント(0)

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