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活動報告

抜駆け落札。

「それでは札を開けます。」
 こう言って、入札の係官はハサミでダンボールの蓋を切った。
「今回の入札業者数は11社です。これから金額の発表をします。」
 封筒から出した用紙を机の上に並べて担当の係官は金額を読み上げた。横に座った若い職員が読み上げられた数字を順次、受付処理台帳に記入していった。7枚目の入札票の読み上げがあった時に狭い部屋の中で動揺が走った。それは予想外に低い金額だったからである。一同は一斉に中年の新顔の男に集中した。みんな目を細めて、苦々しく汚物でも見るような態度であった。
「今回の入札は前島商事さんに決定です。一番安いですからね。よろしいですか。みなさん。それでは河川敷の樹木消毒に関する入札の件はこれで終了しました。ご苦労様でした。」
 入札に参加した業者は依然として不満らしく前島商事のセールスマンを横目で睨みながら部屋を出たが、庁舎の出口に近づいた時、R製薬の営業マンが前島商事の中年男に話しかけた。
「この町すべての樹木消毒でっせ、あんな安い金額で、よう、請け負いましたな。」
 明らかに挑戦的な物言いであった。「やれるものなら、やってみなはれ。」と言わぬばかりであった。
「何せ初めての入札ですから、利益よりも実績を作りたかったのですよ。」
「そうでっか。初めては緊張しますからな。初夜を思い出しましたわ。」とR製薬の営業マンは笑った。
 営業所に帰った前島商事の森田は問屋に注文を入れた。すると、その薬剤は品切れとの回答であった。そこで別の問屋に電話したが、同じく品切れと断られた。森田はやっと気づいた。談合毒が回っとる。

2017年 01月08日 (日) 13:34|コメント(0)

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