桜

本日のお題は「桜」

花言葉は「優美な女性」「純潔」だそうです。

また、種類によっても花言葉は変わってくるそうなので、様々なお話が書けそうです。

イラストはゆめみ愛さん。画像にリンクがあります。

作品は過去作に、手を入れたものです。春なのに、物語の最後は夏になってしまいました。

「桜」

　美しい君に僕は恋をした。

　君は満開の花の下のベンチに座り、本をめくっていた。

　若草色の栞を指に挟み、静かな視線が文字を追う。

　ピンク色の甘い空気と一緒に、僕は心の中の小瓶に、桜の花と君の姿をそっと閉じ込める。

　やがて、いたずらな風が花弁を散らし、日差しが強さを増し……そして、君の姿が消えた。

　時折見かけた電車の中にも君の姿を見ることはなくなった。

　ぽっかりと空いた心の中に雨が降っている。

　降り続けて、僕の心の中は水浸しのはずなのに、なぜか乾いて仕方がないんだ。

　干からびた砂漠の中に、小瓶が一つ、浮いている。

　君の座っていたベンチに腰を下ろした。

　ふと、僕の耳奥に蝉の声が届いた。

　ああ、気が付かなかった、蝉時雨。

　顔をあげると、刺すような陽の光と蝉の声が、振りそそいでいた。