論説 安倍元首相銃撃事件

文字数 14,005文字

事件の概要


 2022年7月8日、奈良市内で参院選挙の応援演説中に、安倍晋三元総理が銃で撃たれ、失血によって死亡した。7月16日までに報道された情報をもとに事件の概要をまとめると、たとえば以下のようになる。(敬称は省略することにする)


 1954年、韓国で文鮮明(ムンソンミョン)が「世界基督教統一神霊協会(統一教会)」(安倍政権下の2015年に「世界平和統一家庭連合」に名称変更が許可された₁)を設立し、妻である韓鶴子と共に総裁を務めた。この宗教法人の霊感商法については、金銭的搾取や家庭破壊などの被害をもたらすことが社会問題化したことがあり、文が献金について、「自分の生命、財産を全部はたいてでもしなければならない」と述べた記録が残されている。

 山上容疑者の父親は奈良に本社を置く建設会社に入社した後、社長の娘である母親と結婚し、3人の子供をもうけた。東大阪市内に居を構えていた当時の近隣住民によると、母親は事実上の宗教法人とみなされている朝起会(あさおきかい)実践倫理宏正会(じっせんりんりこうせいかい))にはまっており、父親はノイローゼだったという。山上容疑者の父親がマンションから飛び降りて自殺した後、1998年頃に山上容疑者の母親が統一教会に入信し、祖父から相続した土地、3人の子供と同居していた住宅を売却する。2002年には破産宣告を受けた。山上の伯父は、母親が活動を始めた背景として、夫の自殺のほか、実弟の交通事故、実母の死にショックを受けていたと話している。母親の宗教団体への献金総額は、夫の生命保険金5千万円など1億円に上るとみられ、小児がんを患い、片目を失明していた容疑者の兄は自殺している。母親の献金に関して、世界平和統一家庭連合は5000万を返金したと述べ、伯父は破産後も献金は続いていたと述べている。

 山上容疑者は進学校の成績上位者であり、大学進学を希望していたが、経済的な事情で消防士を目指して専門学校に進学し、その後任期制の自衛官として海上自衛隊に入った後、自殺未遂をして病院に運ばれたことがある。山上の伯父によると、生活が困窮する兄と妹のために死亡保険金をわたすことが自殺未遂の理由である。自衛隊を辞めた後は、宅地建物取引士やファイナンシャルプランナーなどの資格を取りながら職を転々とし、銃撃事件が起こる前の2020年10月から2022年5月には、派遣社員として働いていたが、5月15日に退職した後、7月には所持金が尽きかけ、7月8日に安倍元首相を銃撃した。

 山上容疑者は、「家庭生活がめちゃくちゃになり、絶対成敗しないといけないと思った」、「入信した母が破産した後も団体に金を納め続けていたため、許せなかった」、「統一教会トップの韓鶴子総裁をずっと狙っていた」、「韓国からトップが来日した時には、火炎瓶で襲おうとしたが、できなかった」、「コロナ禍で海外渡航が途絶え、接触が難しくなった」、「岸信介元首相が日本に招き入れたから孫の安倍氏を狙った」、「安倍元総理が統一教会に向けてビデオメッセージを送っていた」、「トップを狙おうとしたが難しく、安倍元首相が統一教会と近いので殺そうと思った」、「政治的な理由ではない」、「自分が安倍氏を襲えば、家庭連合に非難が集まると思った」、「(爆弾は)関係のない人を巻き込むのでやめた。標的を絞りやすい銃をつくった」などと供述している。

 なお奈良県警は、山上容疑者が宗教団体への恨みを募らせていたことに加え、仕事を辞め、所持金が乏しくなってきたことを背景として銃撃の決意をかためていったとみて当時の状況を調べている。

問題


 現代ヨーロッパの政教関係は様々で、政教分離制度、公認宗教制度、国教制度などがあると考えられている₂。日本では、第二次世界大戦後GHQによる神道指令で国家と神道が分離され、日本国憲法によって政教分離が本格的に実現した。20条1項後段では、「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」と定められている。

 しかし実際には、「外郭の政治団体を組織する新宗教団体もあり、選挙時には新宗教団体の集票能力に期待する政治家がいるという現実もある₃」といった指摘が存在する。山上容疑者は安倍元首相と統一教会との関係を疑ったが、その関係はどの程度だったのだろうか。

 世界平和統一家庭連合の日本教会会長である田中富広(たなかとみひろ)は、会見で「いずれにしろ、教会に対する恨み、そこから安倍元首相の殺害に至ることは、とても大きな距離があって、私たちも少し困惑をしております」と述べた。

 山上を糾弾したり、安倍晋三と教団との関係を否定するような見解は、学者や専門家からも出されている。たとえば、社会心理学が専門の碓井真史(うすいまふみ)は「通り魔事件を起こす犯罪者と同じ心理で、元首相の安倍氏を狙うことで自身の境遇をアピールし、旧統一教会に批判を集めようと考えた可能性がある」と述べている。犯罪心理学が専門の桐生正幸(きりうまさゆき)は、大阪市クリニック放火事件など近年の大量殺人事件と「個人的な恨みの解消を理由にしている点で同じ系譜だ」と述べ、「まずは動機面に着目し、捜査機関が近年起きた大量殺人のデータを集め、犯罪傾向を見ることだ」と語ったと時事通信社が報じている。

 社会学者の古市憲寿(ふるいちのりとし)は「安倍さんとその宗教団体が近いという陰謀論という違う信仰のある種、信者になってしまって、それで今回の犯行に及んだっていうのはすごく皮肉だなって思いますね」と述べ、国際政治学者の三浦瑠麗(みうらるり)も「本件は陰謀論となりつつあります」ととらえ、「陰謀論とは思い込みからはじまります」、「こういう事件が起きて、因果関係として報じることは、安倍さんに責任の一端があったかのような、そういう印象操作になっている」、「因果応報的な報道は、犯罪者に加担するもの。彼の妄想に加担してはいけない」と述べている。

 また精神科医の片田珠美(かただたまみ)は「動画やSNS上の根拠不明な情報を見て、『怒りの置き換え』が生じたのではないか」、「容疑者は恨みの感情に長年とらわれ、相手を置き換えてでも復讐を果たさないと精神の安定が保てない状態に陥っていたのだろう」、「『家庭連合のせいで大変な目に遭ったのだから、復讐しても許されるはず』。その願望を正当化していったのだろう」、「関係があると思い込んだ安倍氏を襲うのは一方的な恨みといっても過言ではない」と述べている。ネットの情報に関しては、脳科学者の茂木健一郎も週刊誌で「YouTubeを見て銃を作成したという報道から考えると、容疑者はネットに出回っている情報で両者の関係性を勝手に判断してしまったのではないか。脳科学で言えば『心の理論』が薄弱だった。」と述べている。なお、心の理論に関しては、「心の理論とは、他者の心的状態や行動を理解する機能・能力のこと。なぜ理論と呼ぶのかと言えば、『他者』は相手の意識状態を直接は知り得ないという意味で絶対的な異物であり、その心の状態は『理論』として推定するしかないからである。」と説明している。

 宗教界でも、安倍晋三と教団との関係を否定する声はある。たとえば、主の羊クリスチャン教会牧師である中川晴久は、「私は率直に『安倍元総理は統一協会とは関係がない』と回答していますが、これは言い過ぎであるかもしれないし、一方で正しくもあります。」と述べ、自民党と統一教会とのつながりを探る記事は、「いくら論説巧みに書いたとしても、結局はそれを喜ぶ政治好きの一種の陰謀論に近いものになってしまうのではないか」とも述べている。そのうえで中川は安倍晋三と統一教会が関係ないということを示すために、統一教会の信者であり、教団の関連団体である世界戦略総合研究所の阿部正寿に言及する。阿部正寿は安倍晋三にもっともアプローチしていたが、「片思いに近いもの」であり、阿部正寿の著書である『安倍政権の強みがわかる日本「精神」の力』には、「帯で思いっきり安倍元総理の顔を出して広告塔にし、「安倍晋三氏と交流のある著者」と銘打っているわりに、中身では安倍元総理について一切書いていません。統一協会の季刊誌も、安倍元総理がよく表紙を飾っていましたが、これと同じことだとうなずけます。」と述べているのである。

 山上は、宗教団体を批判するブログを運営しているフリーライター、米本和広に手紙を送っており、米本がそれに気づいたのは7月13日だった。教団が母親側に献金の一部5000万円を返した際の合意書が同封されており、そこには山上の氏名と住所も記されていた。米本は、「相談できる人がおらず、最後に思いを誰かに伝えたかったのではないか。書き込みをしていたブログの運営者である私を友達だと思っていたのかもしれない」と話している。この手紙のなかで、文一族については「文一族を皆殺しにしたくとも、私にはそれが不可能な事は分かっています。分裂には一挙に叩くのが難しいという側面もあるのです。」、「現実に可能な範囲として韓鶴子本人、無理なら少なくとも文の血族の一人には死んでもらうつもりでしたが、鶴子やその娘が死ねば3男と7男が喜ぶのか、或いは統一教会が再び結集するのか、どちらにしても私の目的には沿わないのです。」と書かれており、安倍晋三については、「苦々しくは思っていましたが、安倍は本来の敵ではないのです。あくまでも現実世界で最も影響力のある統一教会シンパの一人に過ぎません。」、「安倍の死がもたらす政治的意味、結果、最早それを考える余裕は私にはありません」と書かれている。

 以下では、自民党と統一教会の関係について、いくつかの事実と解釈を確認し、自民党と世界平和統一家庭連合との距離は近く、何度も統一教会系の月刊誌の表紙を飾ってきた安倍晋三と統一教会(世界平和統一家庭連合)との関係を否定することは不可能であることを述べる。


自民党と統一教会(世界平和統一家庭連合)との関係


 以下、自民党と統一教会とのつながりの事実関係と、安倍晋三と統一教会とのつながりの事実関係およびその解釈について述べる。より具体的には、前者では福田赳夫(ふくだたけお)の発言、国会での高村正彦への質問、文鮮明の入国を、後者では安倍晋三の秘書による統一教会への関与、安倍晋三の統一教会関連のイベントへの参加について述べる。

 岸信介(きしのぶすけ)は、国際勝共連合の日本支部の発足などで、文鮮明との密接な関係が指摘される政治家であるが、岸の系譜を受け継ぐ清和会を設立し、その初代会長となったのが福田赳夫(ふくだたけお)である。彼は1974年、帝国ホテルで「アジアに偉大なる指導者あらわる、その名は文鮮明ということである」と語っている。また、第一次安倍政権で防衛大臣、第二次安倍政権で自民党副総裁に起用された自民党の高村正彦(こうむらまさひこ)は、弁護士時代、統一教会の訴訟代理人を務めていた人物だが、第143回国会で、次の指摘を受けている。


「高村外務大臣、この方はかつて統一協会の代理人だったわけですね。裁判の記録などにも載っているわけです。それから、一九八九年の資産公開では、統一協会の霊感商法の元締めであるハッピーワールドという会社、ここから時価三百八十万円のセドリックを提供されているというような、これは相当に深い関係だと思うんです。」「第143回国会 参議院 法務委員会」(平成10年9月22日)


さらに、文鮮明が米国で脱税による有罪判決を受け、入国管理法によって日本に入国できなくなった後、「日本の議員連盟との意見交換」という名目で法務大臣の特別許可が出され、入国したことがある。これは宮澤喜一政権下の出来事で、金丸信による政府への圧力があったと報じられた。 

 こうした記録は、自民党と統一教会とのつながりを示す資料の一端である。

 さて次に、安倍晋三と統一教会との関係について述べる。元信者のジャーナリスト、多田文明(ただふみあき)は安倍晋三の父である安倍晋太郎のところに、統一教会信者が秘書として入り込んでいるときかされたと述べているが₄、安倍晋三の秘書にも世界平和統一家庭連合と関係のある秘書はいた。たとえば、第1次安倍政権時に首相秘書官をつとめた井上義行(いのうえよしゆき)は、参院選の比例代表に自由民主党から立候補し当選したが、世界平和統一家庭連合の集会に出席した際には、「井上先生はもうすでに信徒になりました」と紹介されている。テレビ朝日の取材によれば、井上は教団の「賛助会員」であり、「友好団体(世界平和連合)」から参院選で応援を受けたという。井上の事務所は、3年前の参院選で教団の友好団体(世界平和連合)から応援を受けなかったと述べているので、3年前の参院選では8万7946票で落選した井上が今回の参院選で16万5062票を獲得して当選したのは、教団の友好団体(世界平和連合)の組織票が入ったと考えることができる。

 また、ワシントンポストによると、安倍晋三は、官房長官時代に統一教会のイベントに祝電を送り、首相就任後も教団幹部を官邸に招待してきたとされる。山上が見たビデオメッセージは、2021年9月に開催された行事に対するものであろう。また、安倍晋三は他の世界的指導者同様、統一教会関連のイベントでの講演料を得てきたとも報じられているが₅、教団の意図に関しては、世界的指導者、有名人、他の著名な聖職者と団体を関連づけることによって、教団への正当性を得ることだという₆。多田文明は、政治的権威などによって勧誘と献金が容易になると述べている。ワシントンポストは、日本の裁判所が統一教会などに損害賠償を命じた数か月後、ブッシュ(父)が文鮮明主催の会議で講演を行ったことを報じたが、その後、ブッシュは当時の一般的な講演料だった8万ドルを慈善団体に寄付することを決めたと報道されている₇。

 安倍晋三が世界平和統一家庭連合系のイベントに事前収録した映像でリモート登壇した背景について、やや日刊カルト新聞がUPF 兼 勝共連合会長にインタビューした記録を報じている₈。それによると、安倍晋三はUPF 兼 勝共連合会長に対して、次のように述べたそうだ。


『いやこんな風にとんでもない考え方を持っている人たちがこれを批判しているのであって、誰が敵で誰が味方かということが明確になった』『皆さんは私たちの味方であるということが寧ろ明らかになったんですよ』


「とんでもない考え方を持っている人たち」とは、UPFと政治家との関係を批判するような人たちのことで、「皆さん」というのは世界平和統一家庭連合の人たちのことを指していると考えることができる。


 また、UPF 兼 勝共連合会長は3人の元首相に接触しており、そのうちの1人から次のようにいわれたという。


『結局あなたたち(の)団体はわたくしどもの○○先生を団体の宣伝材料に使いたいだけでしょ?布教のために利用したいだけでしょ?あなたたちに利することがあって私どもの先生に利することはいったい何があるんですか?UPFと言ったってそんなのは家庭連合の宗教団体のフロント組織でしょ?』


インタビューの記録には、UPF 兼 勝共連合会長はこれを認めたくなかったが、教団のある幹部はこれを認めているという発言がある。


「我が教団のある幹部に『こんなことを言われた』と言ったら『いや実際その通りだしな』と言うんです。『結局宣伝したいんでしょ?』と。内部がそう思ってるんです。内部は宣伝したいだけで、外部はそこに自分を利用されたくない。私はその間に立たされてね」


 さらに、インタビューの記録には、次のようなUPF 兼 勝共連合会長の発言がある。


「私もこの間ずっと温めてきた信頼関係をいったいどういうタイミングでこれが天の御心・み旨の中に生かされるのかということはずっとお祈りをしてきた。そこである時私はご本人に『先生、世界でペンス(副大統領)が講演をし、マイク・ポンペオ国務長官が講演をし、そしてこういった方々がそれぞれお話をいただいていると、これ先生、もしトランプがやるということになったらやっていただ(か)なくちゃいけないが、どうか』と『ああ、それなら自分も出なくちゃいけない』という話を実はこの春にやり取りをしてたんですよ。」


ここでいう信頼関係とは、安倍晋三との信頼関係であり、自分も出ないといけないというのは、安倍晋三の発言と考えることができる。関係性については、次のような発言もある。


「この方(安倍晋三)といつか会食した時に、いろいろと統一運動をご報告した時にお写真を見せるんです。いくつかの写真にもちろんアボジニム(文鮮明)と岸先生。梶栗玄太郎(かじくりげんたろう)と岸先生、梶栗玄太郎と安倍晋太郎先生。(中略)私とこの方との2ショットの写真がある。それも一緒にして『見てください、3代のお付き合いだ』と『3代の因縁である』とお見せした。」


「この8年弱の政権下によって6度の国政選挙において私たちが示した誠意というものもちゃんと(安倍晋三)本人が記憶していた。こういう背景がございました」


UPFや世界平和統一家庭連合が国政選挙でどんな誠意を示したのか、これだけではわからないが、ある年の参院選における安倍晋三と世界平和統一家庭連合にどんな政治的関係があったのかについては、次のような報道がある。


2013年7月の参院選において、統一教会が全国の信者へ出した「通達」の中には、祖父・岸信介氏の恩人の孫で、安倍晋三氏肝いりの候補者への「後援」を「首相からじきじき」に「依頼」された旨の記述がある₉(岸信介の恩人とは、天照皇大神宮教(てんしょうこうたいじんぐうきょう)の教祖である北村サヨのことを、安倍晋三肝いりの候補者とは、2013年に参院選で当選した北村経夫のことを指している)


元牧師は2013年の参議院選挙の際、安倍元総理に近い、自民党の候補を応援。集会を開いたり、ボランティアを集めて選挙の手伝いを行ったりしたといいます。(教団の元牧師)「教会側としては応援することで何かやってもらえることがあるかなと。(政治家が)何かあったときに守ってくれる背景だと₁₀」


「昔から統一教会と政治の関わりというのは長年にわたって深い関係なんだと思います。私が覚えているのは●●さんですか自民党の、その人を応援していたということは覚えております。教会の上からの指示です。今回は教会で●●さんを応援しますからと₁₁」


結論


 以上みてきた通り、少し調べただけで自民党の政治家が統一教会(世界平和統一家庭連合)とつきあいがあることが判明する。

 碓井真史は、山上を「通り魔事件を起こす犯罪者と同じ心理」だったと述べ、桐生正幸は、近年の大量殺人事件と同じ系譜であり、「近年起きた大量殺人のデータを集め、犯罪傾向を見る」必要があると述べているが、少なくとも碓井が定義するようなタイプの通り魔とはみなせない。碓井は通り魔を2つのタイプに分け、1つのタイプを1度に大勢の人を殺そうとする大量殺人タイプ、もう1つを無差別に殺すことに快感を感じ、すぐに捕まらないような犯行をする連続殺人(快楽殺人)タイプと述べたことがあるが₁₂、山上に無差別殺人をする気はなく、SPに対して抵抗せずおとなしく捕まったからだ。

 古市は山上を「安倍さんとその宗教団体が近いという陰謀論という違う信仰のある種、信者」とし、国際政治学者の三浦瑠麗は「本件は陰謀論となりつつあり」、安倍晋三に責任の一端あったかのような因果応報的な報道は「犯罪者に加担するもの」であり、山上の「妄想に加担してはいけない」とまで述べた。また、片田は山上が「動画やSNS上の根拠不明な情報」によって安倍晋三と教団が「関係があると思い込んだ」と述べ、茂木健一郎も「容疑者はネットに出回っている情報で両者の関係性を勝手に判断してしまった」と述べている。

 しかし、山上でなくても安倍晋三を「統一教会のシンパ」と認識する可能性は十分あるのではないだろうか。全国紙ではない「やや日刊カルト新聞」のインタビュー記事が片田のいう根拠不明な情報だとしても、教団系のメディアである世界日報の表紙に何度も登場し、教団の支持を受ける井上を秘書にし、FWP(世界平和連合)事務総長が支援団体の紹介で最初に呼ばれた集会で井上の応援演説をしたり、合同結婚式を兼ねた集会に祝電を送ったり、教団が開催したイベントで「今日に至るまでUPFとともに世界各地の紛争の解決、とりわけ朝鮮半島の平和的統一に向けて努力されてきた韓鶴子(ハンハクチャ)総裁をはじめ、皆さまに敬意を表します」と述べたのは明白な事実だからである。

 中川は、阿部正寿(あべまさとし)の著書の帯には安倍晋三の顔があり広告塔にしているが、安倍晋三についての文章は一切ない。安倍晋三が統一教会の季刊誌の表紙を飾ることがよくあったが、それもこれと同じことだという。しかしながら、中川の発言を信じることは不可能である。なぜなら、阿部正寿の著書である『安倍政権の強みがわかる日本「精神」の力』には、次のような文章があるからである。


「自民党が必ずしも良くはないと思う点もあったが、民主党よりはましであり、何とか保守政権を樹立すべく私なりに努力してきた。そしてその中心人物は安倍晋三氏でなければならないと決めてきた。これは単に相応しい人物というより、天の摂理から見て安倍晋三氏であるべきだと感じたからである。理由はいろいろあるが、ここでは敢えて書かないつもりである。簡単に言えば天が選んだ人物だということである」


 岸田文雄などは山上の銃撃を民主主義の脅威ととらえているようであるが、現段階では山上が、統一教会とは関連のない政治思想や政治政策を理由として、安倍晋三を銃撃のターゲットにしたと断定することは難しい。山上は「政治的な理由ではない」と供述し、手紙の中で「安倍の死がもたらす政治的意味、結果、最早それを考える余裕は私にはありません」と述べている。それに加え、事件後ニューヨークタイムズが「同情票が集まることで、自民党などが議会の3分の2を獲得する可能性がある」と報じた通り、銃撃の結果が自民党を利することになることは十分予見でき、実際自民党は参院選で大勝したからである。

 東スポは、「『山上容疑者はリベラル色が強い“反アベ”団体に所属していたのではないかと言われています。安倍氏の長期政権の“独善的”な姿勢を嫌う団体。会員は数千人規模です』とはテレビ局関係者。この団体は安倍氏だけでなく、父の故安倍晋太郎元外相、祖父の故岸信介元首相の安倍ファミリーをも敵視する。特に団体幹部は、SNS上で安倍氏を攻撃していた。」と報じたが、奈良県警が17日に押収した手紙に記されていたアカウント名で表示されているツイートをみると、革命について言及したものもあるが、左翼思想とは相いれないツイートも存在している。


今日は朝からずっとこれを聴いている。いずれ日本も革命的な何かが起こると思う。(2022年1月22日、これとはLook Downという歌のことである)

国も自治体も気分が昭和なので矛盾した請求書を頼みもしないのに平気で送り付けて払いたくなければお願いしろと宣う。どう考えても革命が足りなかったのではないかと思う。(2021年6月28日)


(国民投票法の反対に対して)

出たコレ「無知蒙昧の愚民共には憲法も人権も理解不能、国民投票(民主主義の基本の基)等もっての他、我々左翼エリートの指導によってしか人民の幸福は有り得ない(民主集中制)、依らしむべし知らしむべからず」反民主主義、独裁まっしぐら(笑)( 2021年5月11日)

(国民投票法に対して)

何はともあれ、立民が賛成って見直したわ。9条教徒と共産党は放っておいて健全な2大政党になればよい。(2021年5月11日)

SEALDs...あれは一体何だったのだろう。米中冷戦やウクライナ戦争を見ても安保法案は立憲主義の破壊で安倍はヒトラーなのだろうか。(2022年5月6日)


また、自民党や安倍政権についての批判的ツイートもあるが、統一教会や文鮮明を批判するツイートのほうが憎しみは強い。


安保闘争、後の大学紛争、今では考えられないような事を当時は右も左もやっていた。その中で右に利用価値があるというだけで岸が招き入れたのが統一教会。岸を信奉し新冷戦の枠組みを作った(言い過ぎか)安倍が無法のDNAを受け継いでいても驚きはしない(2021年2月28日)

統一教会のおぞましさに比べれば多少の政治的逸脱など可愛いものだ。安倍政権に言いたい事もあろうが、統一教会と同視するのはさすがに非礼である。(2019年10月14日)

(菅政権に対して)

それなりに自民党支持だったが、なんかもう「ざまぁw」しか出て来ない。森喜朗の時代錯誤といい、本当に政権交代するかもな。(2021年2月3日)


文鮮明は生まれた瞬間に叩き殺すの(が)ベストだったクズ。あの血族の全てがそう。(2021年5月18日)

兄弟みな就職して結婚して、それからで本当に良かった。世の中にはこのノリで根こそぎ金を持ち出し親戚に無心し家事は放棄し何日も家を空け、聞けば「世界を救う神の計画の瀬戸際」だと言う。そんな宗教もある。もちろん統一教会だが。(2021年6月7日)

国連の認証を受けたNPOだ(おそらく事実)という事を前面に出す統一教会系の団体が寄付集めに家に来たことがある。世の中そんな程度。(2021年8月11日)


 ツイートをそのまま信頼してよいのかどうかという問題はあるが、ここから察するに、山上には民主主義を否定する考えはなく、統一教会やその政治的団体を承認することにより強い敵意があったように思われる。文鮮明や文の血族に対しては殺意を示している。

 山上は、韓鶴子総裁が殺害された後、教団から排除され分裂状態にある3男、文顕進(ムンヒョンジン)などの意に沿うような結果になるのも、旧統一教会が結束を固めるのも望まなかったという。また、分裂状態にある教団を一度に攻撃するのは難しいとも述べている。現時点では、山上がどういった情報を得て安倍晋三と教団や教団関連団体との結びつきを疑ったのか十分明らかではないが、こうした事情もふまえ、岸信介を祖父にもち、安倍晋太郎を父にもち、統一教会、世界平和統一家庭連合に正当性を与え、あるいは箔を付け、教団の布教や寄付に資する可能性があることをしてきた安倍晋三を「現実世界で最も影響力のある統一教会シンパ」とみなし、文一族や教団への積年の怨恨を転嫁させ、「本来の敵」ではない安倍晋三を銃殺することに伴うその後の調査と報道で、教団の実態を白日の下にさらし、引き続き生じる批判などによる教団の弱体化を図ったという考えは全くの不合理とは考えにくい。

₁ 名称変更について、文化庁宗務課の担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「宗教法人は許可制や認可制ではなく、認証制なので、必要な書類がそろえば認証される仕組みです。2015年の名称変更も、要件がそろったので認証されたということです」と回答し、下村博文は、「文化庁によれば、『通常、名称変更については、書類が揃い、内容の確認が出来れば、事務的に承認を出す仕組みであり、大臣に伺いを立てることはしていない。今回の事例も最終決裁は、当時の文化部長であり、これは通常通りの手続きをしていた』とのことです。」という文章を含む文書を公開した。

 一方2017年には、やや日刊カルト新聞や赤旗によって、下村博文が代表である自民党東京都第11選挙区支部が、世界平和統一家庭連合の関連会社である世界日報から6万円を受け取っていたことが報じられている。(https://dailycult.blogspot.com/2017/11/6.html)

 また週刊文春は、下村氏の後援組織「博友会」が、2013年に開かれた政治資金パーティで世界平和統一家庭連合の関連団体の関係者から2万円を受け取っていたこと、2014年に開かれた政治資金パーティでも世界日報の関係者から2万円を受け取っていたことを報じている。

₂ 北川晶子. EU統合とヨーロッパ諸国の宗教的多様性

~欧州憲法におけるキリスト教の扱いに付随した対立~

http://cafefle.org/txtronbun/2005rbkitagawa3pjp.pdf

₃ 岩井洋. 2007. 知恵蔵. 朝日新聞出版

₄ 多田文明. 2022. 「神の国実現のため」献金していた元信者が証言 「旧統一教会の実態」と「安倍ファミリーの関係」

 なお、多田は中曽根康弘が首相を退陣したとき、教団上層部から次の発言をきいたそうである。「中曽根氏は神の摂理に失敗した。統一教会との結びつきの強い晋太郎を総理大臣に指名すべきだった。久保木修己(統一教会初代会長)を政治に参加させる道が絶たれた」

₅ Abe, like many other world leaders, had appeared at Unification Church-related events as a paid speaker, most recently in September on a program that also featured former president Donald Trump, who spoke via video link.

(Marc Fisher. 2022. 07. 14. How Abe and Japan became vital to Moon’s Unification Church)

₆ Throughout its history, Moon’s church and its affiliates have paid top dollar to attract world political leaders, celebrities and prominent clergy of other religions to speak at conferences, part of a long-standing campaign to win credibility by associating Unification
organizations with famous and respected figures.

(Ibid.)

 “They’ll pay for anybody who will give them legitimacy,” Larry Zilliox, a longtime researcher focused on Moon’s business and political initiatives in the United States and around the world, said Saturday.

(Ibid.)

₇ In the mid-1990s, for example, former presidents George H.W. Bush and Gerald Ford, as well as comedian Bill Cosby and former Soviet premier Mikhail Gorbachev, spoke at Moon-sponsored conferences in Japan and Washington. Bush spoke just months after a Japanese court awarded more than $150 million in damages to thousands of Japanese people who sued the Unification Church and a Moon-owned company, Happy World, after they were
pressured to donate millions of dollars to guarantee their late loved ones’ happiness in the afterworld.

(Ibid.)

After The Washington Post reported on his appearance, Bush decided to donate his speaking fee, which at the time generally ran about $80,000, to charity

(Ibid.)

₈ やや日刊カルト新聞. 2021. 11. 02

https://dailycult.blogspot.com/2021/11/upf.html

₉ 鈴木エイト. 「安倍氏は三代にわたって付き合いがあった」マスコミが書かない山上容疑者・統一教会・自民党をつなぐ点と線

https://president.jp/articles/-/59539?page=6

 鈴木エイトのいう通達とは、内部文書の次の記述である。「全国区の北村さんは、山口出身の政治家。天照皇大神宮教(てんしょうこうだいじんぐうきょう。「踊る宗教」とも)の北村サヨ教祖のお孫さんです。首相からじきじきにこの方を後援してほしいとの依頼があり、当落は上記の「踊る宗教」と当グループの組織票頼みですが、まだCランクで当選には程遠い状況です。参院選後に当グループを国会で追及する運動が起こるとの情報があり、守ってもらうためにも、今選挙で北村候補を当選させることができるかどうか、組織の『死活問題』です。本人のみならず親族にも投票依頼できる方がいれば是非ともお願い致します。明日から三連休、事前投票ができます。投票に行かれた方はメールで結構ですのでお知らせ下さい。」

₁₀ テレビ朝日. 2022. 7. 17. 旧統一教会の元牧師が明かす”献金ノルマ” ”政治とのつながり”に教団側が反論

₁₁ ibid. 

₁₂ 碓井真史. 2014. 柏連続通り魔事件の犯罪心理学:プライドは高いが自信がない?:自己否定と社会への復讐


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