第3話 コンスピラシー

文字数 7,869文字

『専門家によると特殊能力とは、人間の感情などを司るアストラル体と呼ばれるものが関係していると分析されており、つまり深層心理による願望の投影が──』



「お母さん、おはよう。ずいぶん難しい番組見てるね」
「おはよう、レイ。何回かこういう番組見てるけど、やっぱりお母さんにはサッパリだわ」

昼間に起きてリビングに向かうと、ソファに座ったお母さんがテレビを見ていた。

内容は専門家さん達が集まって、一部の人間に備わっている特殊能力について解説している番組。分かりやすく解説とテロップが出ているけど、私が理解できた試しは一度もない。そもそも私は能力者じゃないし。



「でも息子のことだもの、少しくらい知っておきたいじゃない?」
「多分ウィルも原理は理解してないよ。というかそもそも能力をめったに使わないし」

パンの作り方を知らなくてもパンは食べられる。車の構造を知らなくても車は運転できる。
ただ誰かが原理を知っていれば人々は安心できるから、そういうことは賢い人に任せておけばいい。そう言ったのは誰だったか。



「お正月とかで盛り上げるために披露してくれた能力芸は面白かったわよね」
「あー確かに。そういえばそのウィルはどこ?」
「朝早くに出掛けて行ったわよ。ルカちゃんに会いに行くんですって」

ルカちゃん。ウィルの幼馴染で婚約者。

二人が学生の頃はよく家に来ていたらしいが、その頃の私は幼くて記憶があまりない。私とウィルは年が離れているのだ。
身体が弱いらしく、私が小学生の頃には家に来なくなっていたので、実は話した記憶が殆ど無い。
ただ写真だけはウィルにせがんで見せてもらったので、容姿は知っている。綺麗な白髪で大人しそうな、どこかミステリアスな雰囲気を漂わせている美人さん。

そしてその写真から伝わってくる、二人の仲の良さ。



「いいなあ、私もかわいい女の子とデートしたい」
「この間言ってた、ひなちゃんって子はどうしたのよ」
「ひなちゃんはお友達だもん、それに既婚者だし」
「まあ何もせずに嘆いてたって恋はできないわよ。お母さんがお父さんを落としたのだって──」

お母さんの惚気話が始まる。もう何十回も聞いた話だが、変わらず楽しそうに話す姿を見ていると止めるに止められない。
お父さんのことを話しているお母さんは楽しそうだ。お父さんはあまり話さないけれど、見ていればお母さんのことが大好きなのが分かる。

お母さんも、お父さんも、ウィルも。大好きな異性がいる。

けど私は。



「ね、お母さん」
「なあに、レイ。もっと聞きたいなら──」
「孫、欲しかった?」
「……」
「ウィルはほら、彼女さんの身体が弱いから、仕方ない……っていう言い方も失礼だよね。その、なんて言えば分かんないけど、事情がある。けど私は……」
「いいのよ、レイ」

お母さんが私の身体をそっと抱きしめる。それだけで安心するのに、頭まで撫でてくれる。ひとしきり撫でられた後、私の肩に手を置いて向かい合った。とても、とても優しい表情で話しかけてくれた。



「あなたがあなたらしくいることが一番大事。あなたが愛せる人をちゃんと愛して。お母さんはそれを応援するわ、だってお母さんだもの」
「……うん」
「あなたがどんな人を選んだって、お母さんはレイの味方よ。お父さんもウィルもそう」

涙が一粒、頬を伝う。一度あふれた涙は簡単には止められない。



「大丈夫、あなたはお母さんの娘だもの。女の子の一人や二人、落とせるに決まってるわ」
「二股するつもりはないかなあ」
「ふふふ、それならお母さんも安心ね」





────────。





「ルカ、もうすぐ着くけどお手洗いは行かなくて大丈夫か?」
「大丈夫だよ、ウィル。あとデリカシーないよ、それ」
「いやだって、大事だろ」
「そんなに慌てなくてもいいよ、冗談だから。気遣ってくれてありがと」

とある建物のエレベーターの中。ルカとそんなやり取りをしていると、目的の階に到着した。彼女が乗っている車イスを押して、目的の部屋まで移動する。

集合時間15分前だ、予定通り。扉を開けて、二人で中に入る。



「失礼します」

俺たちの目的地、いつ来ても広すぎではないかと感じる大きな部屋だ。

壁に沿うように置かれた大量の棚には歴史書から児童書まで揃っていて、反対側の棚には世界各国のボードゲームが収納されている。さらにボードゲーム用のテーブルも。
最奥にはステージとモニターがあり、片隅に置かれたキッチンにはコーヒーメーカーやワイングラス、急須が置かれている。

そしてメインである中央の円卓には、すでに二人の人物が座っていた。



「来たか」
「やあ、ウィル殿、ルカ殿。ちゃんとエスコートしてきたみたいだね」
「わたしはここまでしなくてもいいって言ったんですけどね」
「恋人が格好つけようとしてるんだから、断るのは野暮ってもんさ」
「お久しぶりです、ロロさん、アミカさん」

腕を組み豪快に座っている、全身を迷彩柄で包みダンディーな髭を蓄えている男性がロロさん。

小柄で割烹着を身に着けている、少し年寄りくさい喋り方をする女性がアミカさんだ。

二人とも詳しい年齢は知らないが、別にアミカさんはそこまで年寄りには見えない。



「立ってないで座れ、ウィル。おれがコーヒーを淹れてきてやる。ルカはホットミルクだったよな」
「いつもありがとうございます、ロロさん」
「あたしのお茶も淹れてくれるかい、ロロ殿」
「……一度に三つは無理ですよ、アミカさん」
「はっはっは、冗談だ」

笑いながらそんなやり取りをする。

各々ロロさんが持ってきてくれた飲み物で一息つきながら、最近自分の周りで起きた出来事などの雑談をする。
ルカは体調が良くなってきた話を、ロロさんは娘さんに振り回されっぱなしな話を、アミカさんは自分の庭にネコが住みついた話を。

ロロさんとアミカさんは困っているかのように話すが、表情はずいぶん楽しそうだ。



「そういえばウィル殿、黒川の様子はどうだい?」
「かなり優秀ですよ。優しすぎるのか、俺と実戦形式で稽古すると攻撃をためらっちゃうところもありますけど。流石はアミカさんのスカウトした子ですね」
「そうかいそうかい、順調そうなら良か──」

すると突然、バァン!と後ろの扉が勢いよく開かれた。



「お待たせー!リーナお姉さんがやって来たよー!」
「……リーナ、いつも言っているが静かに扉を開けろ。ルカがショックで倒れたらどうする」
「大丈夫ですよ、ロロさん。わたし、そこまで弱いわけじゃ」
「ごめんねー!ルカちゃん、お詫びにハグしてあげるね!」
「ふふふ、ありがとうございます」

座ったままのルカを優しくハグするリーナさん。
言動からはやや幼い印象を受けるが、見た目や中身はキチンとした気配り上手の大人のお姉さんだ。



「ウィルくんも!ほら、ハーグー」
「俺は遠慮します」
「遠慮なんていらないよー!勝手にしちゃうもんね!」

俺の方に向かって飛び掛かってくるリーナさん。……が、俺の身体をすり抜けて、そのまま地面に倒れこんでしまう。
可哀想なので席から立ち上がり、助け起こす。勢いよくいった割にケガはなさそうだ。



「ルカ、能力使っただろ。危ないぞ」
「知らない」
「はっはっは!若いねえ!」

分かりやすく拗ねるルカと、それを見て大笑いするアミカさん。そして呆れながらも見守るロロさん。

俺たちもいい歳だが、この中だと一番年下なのでいつまでも子ども扱いだ。
出会った時は学生だったから、おそらく彼女らの中ではその時のままなのだろう。

可愛がられるのに悪い気はしないが、いい加減少し恥ずかしい思いもある。



「ありがとう、ウィルくんは優しいねえ、お姉さんの養子にならない?」
「養子って。せめて義弟でしょう、年齢的に」
「……ウィル、浮気?」
「どう見ても浮気じゃないだろ、何を言ってるんだお前は」
「あ、ルカちゃんもお姉さんの養子になりたいってことかな?」
「リーナ殿、面白いのは分かるがそろそろ止めときな、ルカ殿を怒らせたらあたし達みんなただじゃ済まないよ」
「はーい!ルカちゃん、もちろん冗談だから安心してね!」

そろそろ本気で俺がルカに怒られそうなので、リーナさんのスキンシップはハッキリ拒絶した方が良さそうだ。それはそれで面白がられて悪化しそうではあるが。






「そうとも、これから我々には重要な話し合いがあるのだ。そろそろ茶番は止めてもらおうか、幹部諸君」
「!!」

低めの声が聞こえてくるのと同時に部屋の明かりが消え、ステージが照らされる。
ステージ上に立つ、ひとりの男性の姿。



白いスーツに華やかなネクタイ。高そうなコートとアクセサリー、オールバックに纏められた髪。
この世のすべてを支配しているかのような、不遜な表情。






俺たちのボスだ。








────────。





「まずはルミナスの処分、ご苦労だった。ウィル」
「いえ、任務をこなした迄です」
「……それは任務だから考えなしに遂行した、という意味ではないよな?」
「はい、キチンと己の目で見極め、判断しました」
「よろしい。この場にただ指示通りに動く人形は要らないからな」

ボスがワインを一口飲む。いつ来ても、この会議の場には──。



「よくやったね、ウィルくん!エラいぞ、お姉さんがよしよししちゃう!」
「……リーナ、ボスのわたしが格好つけているのだから空気を読め」
「えー、だってボスの褒め方素直じゃないんだもん。若い子はちゃんと褒めてあげないと、ねー?」

緊張感がない。
大体いつもこんな感じでゆるい雰囲気だ。
9割はリーナさんのせいだと思うけど。



「ったく。あとアレだ、名前を忘れたが、ガキ三人組の件」
「クラスメイトに自殺教唆、買春強要、痴漢冤罪とかやってたやつらだよね?」
「そう、そいつらだ。それも片付けてくれていたな、ご苦労」
「ありがとうございます」
「若いのに働き者だね、ちゃんと休んでるのかい」
「よーし、それじゃあウィルくんの活躍を祝って飲みに──」
「会議中だ、バカが」
「ボス、口が悪くなっているぞ」

リーナさんが引っかき回して、ボスが不満を漏らして、ロロさんがなだめる。
アミカさんはずっとニコニコしながらそれを見守り、俺とルカが困った顔をする。

適度にふざけながら、時に真面目に会議を進める。創立当初から変わらない光景だ。
そうしたやり取りを交えながら各々担当している仕事の進捗状況、部下の近況報告などを済ませる。



この場に居る俺とボス以外の4人は全員、幹部と呼ばれる役職に就いている。

幹部にスカウトされたばかりの新人隊員は指南役の俺の元で武術や座学を学び、その後スカウトした幹部の部下として配属される。

そして隊員の多くなった今では、幹部が部下の中から一人まとめ役を指名している。それを軍団長と呼ぶ。

これは単なる上下関係や強さ順ではない。お互いの信頼関係から成り立つ”組織”。
俺たちはいつだって部下たちを気にかけているし、部下たちも俺たちを信頼してくれている。

ほとんど単独で動くヒーローやヴィランとは違い、俺たちは常に支え合って生きている。






「──白森さんについてはこんな感じです。以上で俺の報告は終わります」

「よろしい。以上の話で疑問のあるやつはいるか?」

ボスが問う。全員が否と答える。



「それでは──」
「ウィルくん、ボードゲームしない?」
「わたしも誘え、負けっぱなしは性に合わん」
「ボス、そこじゃない」

コントみたいなやり取りに思わず笑ってしまう。つられてルカも笑っているのが見えた。
アミカさんは腹を抱えながら大笑いしている。



「組織の創立メンバーが揃うこの日に、わたしが何も打ち上げを計画していないと思うか?」
「え、それじゃあ──」
「まあまて。その前にひとつ、我々は”特別なお客様”からの依頼について話さなければならない」

その言葉を聞いた瞬間、メンバー全員が姿勢を正す。

ボスがこの言い方をする件といえば、決まってひとつだ。






「政府から直々に依頼が来ている。内容は──」











────────。





「お嬢さんヒマ?良かったらオレらと遊ばねー?」
「忙しいです」

お昼過ぎ。お母さんは買い物に出かけて、ウィルもまだデートから帰ってきていないので、家にひとりでいるのもなんだからと街をぶらぶらしていると、古典的な話しかけ方をされた。今時いるんだ、こういう人。



「またまたー、ひとりで寂しそうにしてんじゃん」
「彼女待ってるんですよ、私、男なんで」
「いや、どうみても女の子でしょ」

私が起きたのが遅かったのもあって、誰も友達が捕まらなかったのが運の尽き。これなら家でSNSでも見ていれば良かったか。
露骨に嫌そうな態度を出して早歩きするが、しつこく付きまとわれる。
殺ってしまいたいが、ウィルに絶対ダメだと止められている。



「あの、しつこいです。警察呼びますよ」
「オレらは遊びに誘ってるだけじゃん、何その態度」

へらへら笑いながら見下すような視線を向けてくる。
掴んできたら脳天かち割ってやろう、もう決めた。
そうして男のひとりが手を伸ばしてきて──。



「おおっと!無理やりは良くないぞ、少年たちよ!」

後ろから突然現れた人物がその腕を掴んで止めた。



「な、なんだお前!」

振り返ると、そこには身長2mを超えていそうな、というか身長以外も色々とデカい女性の姿があった。
男が手を振り払い距離を取ると、その女性は決めポーズなのかなんなのか、お相撲さんの突っ張りのようなポーズをしながら名乗った。



「おれ様はシューティングスターだ!」

……女性、だよね。



「ヒーローが何の用ですかあ?オレら何も悪いことしてませんけど」
「なに、おれ様はこの子の彼女でな!別に少年たちに直接用があったわけではないぞ!」

ふっはっは、と大声で笑う。この人、声もデカい。
というかウソが下手過ぎる、すごい棒読みだった。



「では行こうか、ダーリン!」
「え、あ、うん」

彼女に思い切り手を握られる。手もデカい、力も強い。ほとんど引きずられるような形でその場を後にする。
だが好都合だ、このまま退散させてもらうとしよう。そう思った矢先に、後ろにいる先ほどの男がカバンから何かを取り出すような音が聞こえた。

ナイフだ。

男がナイフを取り出すと同時に走ってくる。だが彼女の力が強くて振りほどけないし、この巨体を抱えてかわすのは無理だ。こうなったら自分だけでもかわすしか──。



「危ないぞ!」

彼女がその巨体からは想像できないほど華麗に身をひるがえし、男のナイフを持った手を止める。更にいつの間にか私のことを庇えるような位置関係になっていた。



「これは立派な銃刀法違反だな、少年!」
「おい馬鹿!何ヒーローの前でナイフ出してんだよ!」
「うるせえ!あの女はオレのもんだ!お前らも手伝えよ!」
「くそっ!付き合ってられるか!」

男たちが仲間割れをし、ナイフを取り出した男以外が逃げ出した。
というかヒーローと分かっている相手にナイフを取り出すこの男が正気とは思えない。



「放しやがれ!」
「おっと!」

男が蹴りを繰り出し、彼女がそれを回避する。よく見れば男の履いている靴の先には刃物のようなものが飛び出ていて、明らかに彼が異常であることを示しているようだった。
彼女に抱えられ、男と距離を取ったところで降ろされる。



「少女よ、おれ様を信頼してここで待っていてくれるか?」
「う、うん。分かった」

とりあえず私は力なき一般市民のふりをすることにした。
彼女は私が男の視界に入らないように立ちふさがり、男に向かって話しかける。



「少年よ!運動量の法則は知っているか!」
「何の話だ、クソヒーロー!」

男は明らかに苛立っている。
彼女は気にせず膝に手を添え、足を高く上げて力強く踏み落とした。いわゆる四股だ。



「質量かける──」

その瞬間、彼女が姿を消す。

透明になったわけではない。風の流れから、移動したことが分かる。だが、一切目に追えなかった。

男と目が合う。状況を理解していないのか、標的を私に変えた。

だがそれは悪手だ。



「速さだ!!!」

ドンッ!という大きな音と共に男の身体が吹き飛ばされる。先ほど男が立っていた筈の場所には彼女の姿。
やはり目で追えなかった。動体視力には自信がある方だが、これはもうそういう次元ではない。
すごい速さだ。だが何よりもすごいのは──。



「結構初歩的な計算式をすごいドヤ顔で言ってる……」

決まった!みたいな顔でたたずんでる彼女の姿だった。





────────。





「ご協力ありがとうございました!」
「いえいえこちらこそ、助けていただいてありがとうございます」

男の身柄が警察に確保される。
どうやらナイフの所持以外にも薬物の所持、また使用の疑惑があるようで、元々目をつけられていた人物だったらしい。
あの男と一緒に居たグループにも同じ容疑があるようで、間もなく逮捕されたとのこと。どうやら事前に彼女が警察に連絡を入れていたようだ。



「せっかくの休日を台無しにして申し訳ない!よければおれ様が何か奢ろうか!」
「いえ、大丈夫です。帰ったらお母さんがご飯作って待ってるので」
「そうか!それは寄り道しないで帰らないとな!ふっはっは!」

助けられた身ながら申し訳ないが、立場上あまりヒーローと仲良くしない方が良いだろう。そういう決まりはないが、いざという時に辛いだけだ。



「はい、では私はこれで失礼しますね」
「おれ様が最寄りの駅まで送って行こうか?車より早いぞ!」
「そこまでしてもらうのは申し訳ないですよ、自分で帰れるので大丈夫です」
「そうか!まあ車より速い速度を出すとおれ様の目でも何も見えなくなるのだがな!」

豪快に笑いながら自分の能力の弱点を話す。そうか、そういうこともあるのか。
一応記憶に残しておいて、去りながら手を振ってあいさつすると彼女はこれまた豪快に手を振り返す。
多分、というかほぼ確実にいい人だと思う。それが言動から伝わってきた。



そろそろウィルもお母さんも帰ってきているだろう。今日の晩ご飯を楽しみにしながら、私は電車に乗り込んだ。





────────。






「……」
「どうしました、シューティングスターさん」
「いやなに。あの少女、暴漢に襲われた割には落ち着いてひとりで帰ったと思ってな」
「シューティングスターさんは頼もしい女性ですからね、あの子も勇気付けられたんじゃないですか?」
「……そうだな!考え過ぎか!ふっはっは!」






────────。





「ただいまー母さん」
「おかえり、ウィル。レイはまだ帰ってきてないわよ、今帰りの電車に乗ったところですって」
「そっか、分かった」

上着を脱いで、テレビを付ける。見るのはいつも通りニュース番組だ。



「デート、楽しんできたの?」
「楽しかったし、楽しんでもらえたよ」
「いいわねー。お母さんもウィルくらいの年齢の時は──」

いつもの母さんの惚気話が始まる。コップに野菜ジュースを注ごうと思ったが、気分が違ったので水にする。
母さんの話に相槌を打ちながら、片手間にニュースも見る。

『──駅前付近で暴れていた銃刀法違反の男を捕まえたのは、女性ヒーロー「シューティングスター」。彼女はテレビに出ることは滅多にありませんが、今回特別に──』

「シューティングスター……」
「あら、知り合い?……っていうかレイが行った駅じゃないの、ここ!」
「大丈夫、ケガ無いよって連絡来てるし、ハニー達から安全を確認したって連絡も来てる」
「良かった。もう、心配したじゃない」
「あいつもトラブルに巻き込まれやすいねえ」



母さんと会話しながら、会議の内容を、ボスに言われたことを思い出す。






『諸君らには人探しを願いたい。なるべく事を荒立てず、なおかつ君たちの手で、だ。その者の名は──』






「シューティングスター、ねえ」

コップの水を、一気に飲み干した。



<了>
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