第1話 リーサル

文字数 7,617文字

『紫別市では今もヒーローの大規模な戦闘が続いております。危険ですので近隣住民の方は警察官の指示に従い、直ちに避難を──』



「おはよー、母さん」
「おはようウィル。ねえねえ、今ニュースに映ってるのってあんた達が所属してる組織?」

朝起きてリビングに向かうと、母さんが興奮気味にテレビの方を指していた。見ればヒーローが戦っているところらしい。
だが戦いにカメラが追い付けていないし、追っているのもヒーローの方なのでよく分からない。



「ヒーローばっか映ってて分かんない」
「もう、ヒーローなんて映してないで相手の方を映しなさいよ!」

多分、一般の人はヒーローの方が見たいというのが大半だと思うが。
この国にはヒーローが多いとはいえ、活動中のヒーローを街中で見かけることは少ないし、戦っているところなんて危ないからこうしてテレビで見るしかない。
そんなことを考えながらテレビを見ていると、一瞬だがヒーローと戦っている人の姿が見える。直接の関わりはないが、軍団長の内の一人だ。



「うん、俺たちがいる組織のひとだね」
「やっぱり!同じイヤリングしてると思ったのよ」
「状況は?どっちが優勢とか分かる?」
「お母さんそういうのよく分かんないわよ。お、やれ!ヒーローなんてぶっ飛ばせ!」

特撮ドラマみたいに綺麗に映しているわけでもないから分からないか。テレビを見ながら子供のようにテンションが上がっている母さんを横目に、冷蔵庫から取り出した野菜ジュースをコップに注いで飲む。



「朝ごはんは?」
「あ、ちょっと待ってて。レイが支度しててもうすぐ出てくると思うから、一緒に用意しちゃうわ」
「え、今日は休みなのになんでまたこんな早くから──」

言い切る前に洗面所の扉が開けられる。中から出てきたのは何故か朝から気合の入った髪と服で決めて、普段と違い姿勢の良い立ち姿の妹だった。



「おはようございます、お兄さま」
「……」
「あら、どうしたのですか?」
「今度は何の影響を受けてそうなった」
「いやですわ、わたくしは最初からこうですわよ」
「よし、分かった。怖いからもうやめてくれ、お兄ちゃんからのお願いだ」
「そう?じゃあやめる」

凛々しい表情が一変、普段の気の緩んだ表情と姿勢になる。あまりの豹変に若干の恐怖さえ感じるが、女性はいくつもの顔を持つとは母さんの教えだ。
まあレイの場合は何かしらの作品の影響を受けて真似するのが趣味なだけだが。



「ウィルは普段の私が大好きってことなんだね、しょうがないなー」
「少なくともさっきの喋り方よりは今の方が落ち着く」
「それよりもほら、私を見て他に何か言うことない?」
「髪も服もバッチリ決めてるよな、デートか」
「そう、ウィルとのデートです」
「デートじゃないし、出掛けるのは昼からだが」
「兄妹のデートはお家デートから始まる……」
「お願いだから少しは話を聞いてほしい」

いつからレイはこんな話の通じない宇宙人になってしまったのだろう。子供の頃はもっと素直だった……というのは少しおじさん臭いだろうか。
だが仕事の話は真面目に聞いてくれる。レイとは同じ職場で働いているのだが、助けられていることも多い。
だからこれはワザとやってる節があるのだが。



「はい、ご飯の準備できたから食べなさい」
「ありがとう、母さん」

「「いただきまーす」」






『被害は今も拡大しており、確認された死者は──』








────────。





家を出てから数時間後。
俺たちは一旦休憩として、カフェのテラス席に座っていた。
レイはパフェを、俺はコーヒーを頼んだ。



「ねえウィル、この前昇格祝いに一緒に焼肉行った私たちの教え子、覚えてる?」
「覚えてるよ、東条さんだろ?彼女、優秀だったから特に記憶に残ってる」
「短いけどもうネットニュースに載ってる。ほら見て」

差し出されたスマホの画面を見ると、確かに東条さんが写っている。
『三位一体ヒーロー、敗北』か、確かそこそこ有名なヒーローだった筈だから、快挙と言っていいだろう。



「おめでとうってメッセージ送ったら、『まだまだ精進します、お二人のお陰です!』だって」
「ははは、相変わらず謙虚だな」

話している内に注文の品が届く。美味い。レイの様子を見ればパフェも美味そうだ。
初めて入ったが気に入った。駅から近いし、この周辺に来たときは寄るのも悪くないかもしれない。
店の雰囲気も良いし、天気が良ければ最高だったのだが。まあそこまで求めるのは贅沢だ。



「見つけたぞ」
「ん?」
「通報を受けて来た、お前らは悪の組織の一員だな」

そこで突然、ひとりの男が俺たちに話しかけてくる。
友達ではない。コスチューム姿であることや発言から、”ヒーロー”であるのが分かった。



「こんなところで何をしている」
「コーヒーを飲んでいる」
「パフェ食べてるの、見て分からない?」
「何を企んでいると聞いているんだ」
「コーヒーを飲んでるだけで疑われるなら、この店の客全員が容疑者になるが」

このカフェには休憩で立ち寄っただけなのだが、そう言うとヒーローが懐からスマホを取り出す。
少し操作した後に、俺たちに画面を見せつけてきた。俺たちが映っている。



「これはお前らだな?」
「勝手に撮ったのか、ファンならサインでも書いてあげようか」
「これは市民が撮ったものだ。そしてこの写真のお前らは悪の組織共通のイヤリングをつけている」

イヤリング。それは俺たちが所属する悪の組織では全員に配られるもので、つけるのは一種の意思表示でもある。
色で階級を示したり、他にも機能や利点はあるのだが今は省略するとして。
因みに俺たちのイヤリングは黒色で最下級だ。



「なら見て分かるだろう、今はつけてない、プライベートなんだ。何かする気はないよ、そっとしておいてくれ」
「そういうわけにはいかない。その言葉は信用できない」
「そうですかっと。じゃあ座るといい、何を頼む?」
「仲良くお茶をしに来たのではない」
「そこに突っ立ってたら他の客と店に迷惑だろ」
「……」

ヒーローが大人しく席に座る。
店員さんを呼んで、コーヒーを頼んだ。続いてレイがパンケーキを頼む。



「呑気だな」
「そうイライラするなって。嫌いな奴と話をするときは美味いもの食ったら良いって父さんが言ってた。何か頼むか?」
「要らない」
「そうか、残念」
「ウィル、一緒にパンケーキ食べよう」
「レイは優しいなあ、お兄ちゃん嬉しいよ」

相手が食事に乗ってくれない場合はどうしたらいいんだろうね、父さん。それとも俺が口下手なのかな。



「ああ、自己紹介がまだだったな。俺はウィル、こっちは妹のレイ。二人で新人隊員の指南役をしているんだ」
「何の真似だ」
「何って、この先ずっとヒーローだの悪の組織だのってお互いを呼び合うつもりか?仲良くするかは別として、礼儀として名前は必要だろ」
「……ブーンだ」
「あ、知ってる。1ヶ月前に青平市の戦いで軍団長を退けた人。SNSもやってて若者の間で有名」
「そうか。会えて光栄だよ、ブーン」
「……」
「俺はどうやら嫌われてるみたいだな」

握手しようと手を差し出すが無視される。裏があるとでも思われているのだろうか。
東条さんと焼肉に行った時も、『ウィルさんって最初すごい胡散臭い人だと思ってました!』って満面の笑みで言われたんだよな。ただ単に慎重派なだけなのに。



「悪いことは言わない。自首しろ」
「自首も何も、ただカフェに居るだけだ」
「悪の組織に所属しているだろう」
「ヒーローが不祥事を起こしたら、ヒーロー全員逮捕するのか?」
「ヒーローは市民に危害を加えない。お前らは市民に危害を加える集団だ」
「……そうか。きみは若いし、最近現場デビューしたばかりだから知らないのか。ヒーローだって市民に危害を加えてるぞ」
「何を言っている、そんなことをするヒーローがどこに──」
「それにきみは既に市民を一人殺してる、ブーン」
「……何?」

彼が怪訝な顔をする。謂れのない罪を問われているかのように不機嫌そうだ。



「一年前のフレアスネイク事件のことは覚えているか?」
「覚えている、オレがヒーローとして初めて現場に出向いた事件だったからな」
「ならその事件できみが助けた、両親と家を失った女の子のことは覚えているか?」
「……なぜお前がそんなことを知っている」

今度は不気味なものを見るような視線を向けられる。



「俺は自分が指南した愛しいハニー達のことは全員覚えている。その後、女の子に何が起きたかは?」
「……知らない」
「そうか。まあヒーローは政治家じゃないとはよくいうからな、戦い終わった後の現場のことなんて知らないよな」
「さっきから何が言いたい、お前が指南したとはどういうことだ」

発言と態度から彼にイラつきが見え始める。貧乏ゆすりをしているのか、椅子がカタカタと音を立てている。



「焦るなよ。その女の子は現地の大人たちに保護されたんだ」
「……良い話じゃないか」

依然として苛立たれている。






「大人たちが女の子を強姦していたとしてもか?」
「……!?」

椅子の音がピタリと止んだ。



「その女の子は大人たちが眠りについた後に逃げ出して、あてもなく彷徨っていたところをうちの隊員が保護したんだ」

「俺たちだって人間だ、同情くらいする。そうしてしばらく保護していたある時、女の子は俺たちの組織に入りたいといった。理由は聞かなくても分かった、復讐のためだ」

「だが復讐ってのは人が思うより気は晴れない。実際に復讐目的で組織に入ったハニー達を何人も知っているが、全員口を揃えて言うよ、胸糞悪い気分だったって」

「だから復讐だけが目的なら入れられないし、入らなくても気が済むまでここに居ていいと伝えた。だがそれでも女の子は組織に入りたいと言った。だから俺たちはその子を鍛えたんだ」

一旦話を区切る。ブーンは俯いていて、表情が分からない。



しばらく沈黙が続いた後、顔を上げた。睨まれている。



「……それでなんだ、市民を守れなかったヒーローは人殺しだって?」
「いいや、違う。1ヶ月前の青平市での戦いは覚えてるよな」
「ああ」
「軍団長は強かっただろう。相当苦戦したんじゃないか?」
「そうだな、それがどうした」
「その時、他にも3人の戦闘員が居ただろう。そいつらの顔は覚えているか?」
「……」

ブーンが目を見開く。嫌な予感がしているのか、冷や汗をかいている。目も泳いでいる。



「その反応は、やっぱり気付いてなかったんだな」



「俺はあの日、青平市にその女の子を向かわせた。自分を助けたヒーローの話なら聞くだろうと、あの子を助けたヒーローなら話をするだろうと」

「実際にあの子はきみを見て攻撃をためらった」

「だがきみは躊躇なく攻撃した。あろうことか雑魚呼ばわりして、叩きのめした」

「気付かなかったどころか、覚えてすらいなかったんだろう?助けた人の顔なんてさ」

「きみは誰も助けられていない。それどころかあの子の心を殺し、市民に戻る道を断った」
「……お前たちがその子を警察に預けなかったせいだろ!」

ブーンが激しく憤る。構わず俺は言葉を続ける。



「救助活動ができる自分に酔っていたんだろう?」
「オレではなく、お前のせいだ!」
「それとも軍団長と渡り合える自分にかな」

テーブルが倒れ、食器が割れる音が鳴る。
ブーンが立ち上がって俺を殴ったからだ。

身体が少し浮き、地面に打ち付けられる。
顔、続いて背中に痛み。
甲高い悲鳴が聞こえてくる。

身体を起こし、地面に座ったまま話を続ける。



「きみがヒーローになった理由を当ててやろうか。テレビで見たヒーローに憧れてだとか、人気者になれそうだとか、そんなところだ」
「黙れ」
「なぜ悪の組織に人が絶えないのか考えもしない。なぜ悪の組織が存在するのか考えもしない。何も疑わず無知のまま生きて、自己顕示欲を買っているんだ」
「黙れ!」

ブーンの右手が眩く光る。



拳が俺に向けられて──。






炸裂音が鳴り響いた。








テラス席が吹き飛び、カフェの看板にも若干の被害が生じる。

その様子を、俺たちは彼の後ろから眺めていた。



「ウィル、ちゃんと自分で回避して。あんなの受けたら死んじゃう」
「怒りに任せて人を殺したヒーローがどんな顔をするのか見たくてさ」
「自分が死んだら見れないでしょ」

俺はレイにすんでのところで助けられたのだ。俺と違って優秀で優しい妹だ。

ブーンは呆然と立ち尽くしている。まあ自分の手でカフェ半壊させたからな。
怒りに任せてやらかした人間ってのはそうなるものだ。そのまま勢い任せに暴れ続ける馬鹿でなくて良かった。



「逃げようか」
「そうだね、これ以上ここに居ても──上!」

上から降ってきた槍をかわす。新手だ。



「この騒ぎはあんた達の仕業ね!」
「次から次へとまあ、厄介ごとが来てくれるよな」
「ウィルがあのヒーロー煽ったのも原因だと思うけど」
「悪かったよ。見てたら腹が立ってさ、つい」
「それは同感」
「やっぱりあんた達か!」

レイと呑気に会話をしていると、後から来たポニーテールのお嬢さんが割って入ってくる。



「そう血気盛んにならないでくれよ、お嬢さん。俺たちは帰るところだったんだ、戦う気はない。それに暴れたのはあそこに突っ立ってるヒーローだ」
「……!ブーン、どうしたの!?」
「あれ、知り合い?」

お嬢さんがブーンに駆け寄る。話しかけているが、放心状態なのか応答している様子はない。



「あんた達、ブーンに何したの!」
「少し話をしてたらそいつが暴れて、カフェを壊した」
「そんなわけないでしょ!」
「本当だって、後で店員にでも聞いたらどうだ。いや、SNSを見た方が早いか?」

今も結構な人だかりが出来ている。誰かしら動画を撮って投稿してるだろう。
さっきの様子を映してる動画がないかスマホで探してみる。



「ウィル、あんまり時間かけてるとまた変なのが寄ってくる」
「あーそれもそうだな、帰るか」
「逃げるのか!」
「だって人多いし。それに良いのか?こんなに人が大勢いる中で戦っても」
「……っ!」
「じゃあね、お嬢さん」
「お友達によろしく」

背中を向けてその場を立ち去る。
流石にお友達を置いて追いかけてくるようなことはしてこなかった。






「ウィル、何で殴られたときに抵抗しなかったの」
「SNSであの様子が拡散されたら、あいつの評判ガタ落ちになるかなってさ」
「嘘ばっかり。普段SNSなんて発想にもならないくせに」
「ははは、バレたか」





────────。





「今日は楽しかったね」
「そうだな」

途中、疲れるようなことはあったが。
別に今日はヒーローの件がすべてだったというわけではない。母さんが前から欲しがっていた調理家電を注文できたし、レイにヘアアイロンも買った。カフェのコーヒーは美味しかったし、総合的に見れば満足のいく休日だっただろう。

帰り道、電車に揺られながら明日の訓練メニューを考える。最近は優秀な子が多いせいか、それに追いつこうとオーバーワークをする子もいるので、注意しながら軽めのメニューにしよう。いやいっそ座学の時間を多めに取ろうか。

とにかく自衛手段の強化をしたい。ブーンの一件もあるし、彼らの命を守らなければ。それが指南役に選んでもらった者の務めだ。



そんなことを考えていると、レイの視線が遠くを向いていることに気付いた。その方向に居る若者の男女3人組が、迷惑にも大声で騒いでいる。少し離れたところに居る俺たちにも会話が聞こえてくるので、その内容に耳を傾ける。



「だろ?あんなやつがヒーローになれるかっての!」
「あはは、無理無理!」
「あいつ、話しかけるだけでなんかブツブツ言っててキモいんだよなー」
「おれ達と同じ土俵に立とうとすんなって話!」

話の内容はいかにも低俗で下劣だった。実際、あの若者の近くに居る乗客は顔をしかめている。
名前は忘れたが、あの制服はここらで有名な偏差値の高い学園のものだ。
成績と知性は関係ないということだな。



電車が俺たちの降りる駅に着いた。するとどうやらあの若者たちも降りるようで、扉から離れようとした乗客と肩がぶつかっていた。

「チッ、どけよおっさん」

……。



「レイ、降りるぞ」
「分かってる」

電車を降りて、ポケットから取り出したイヤリングをつける。



仕事だ。





────────。





「おい、さっきから人のこと付け回して何の用だ」

駅から離れ、人通りの少ない道。金髪男が得意げにこっちを見て話しかけてきた。



「なにこいつ、うちのストーカー?」
「……おい、こいつ悪の組織のイヤリングつけてるぞ」
「でも黒色だ。てことは一番下っ端の雑魚だろ」

「こんな雑魚、パパっと片付けておれのキャリアに──」

金髪男の首をナイフで掻き切る。






「……は?」

ぼさっと突っ立ってる茶髪男の脳天にナイフを突き刺す。

女は腰が砕けたのかその場に座り込んでいたので、顎を蹴り飛ばして顔面を踏みつぶした。

イヤリングを外してポケットに入れる。



「おーい、終わったから帰ろう」
「……頼めば私も手伝うのに」
「こういうのは俺の役目だからいいの」

後ろに控えていたレイの元に行くと、少し拗ねていた。
あとで冷凍庫のアイスでもあげよう。

雨が降って来た。



「あー、雨か。家とは正反対なのに結構歩いちゃったんだよな」
「タクシー使おうよ、今日はもう歩き疲れたし」
「そうだな、そうするか」

適当なところでタクシーを拾って、家に向かう。



何となく気分で、窓から景色を覗いてみる。近場とはいえ駅を挟んで自宅の反対側であるこちらの区域は、最近はあまり立ち寄ることがなかった。
記憶とはずいぶん違う景色を見るのは、思いのほか面白い。



「……なんか駐車場増えてない?」
「あ、やっぱり?俺もそう感じてた」

前に見てから何年経ったかなんて流石に覚えてないが、駐車場の隣に駐車場なんて景色ではなかった気がする。
今度の休みはこちら側を散歩するのも良いかもしれない。





────────。





「「ただいまー」」
「お帰りなさい。雨降ってきたでしょう、大丈夫だった?」
「タクシー使ったから大丈夫だよ」
「あら、そう。なら良いのだけれど」

「お母さん見て見て、ウィルがヘアアイロン買ってくれた」
「あら良いわね、お母さんも前に言った調理家電が欲しいんだけど」
「それも買ってたよ、一週間後に届くって」
「レイー、届くまで内緒にしようって言っただろー」
「あ、ごめん。忘れてた」
「あらあらあら、そうだったの」
「母さん、頭撫で過ぎ、ハゲる」
「お母さん、学生の頃にお父さんのことよく撫でてたけどハゲてないわよ」
「地味に聞きたくなかった、それ」

親の惚気話って地味にきついんだけど、俺だけなのだろうか。レイは喜んで聞いてるし。
母さんたちが楽しそうならそれで良いんだけどね。夫婦仲が良いのは悪いことじゃない。

『──3人の遺体が発見されており、警察は──』

「ねーお母さん、チャンネル変えていい?」
「珍しいわね、レイがテレビ見たいなんて」
「好きなアーティストがテレビに出るんだよね、めっちゃレアなの」
「そうなの。良いわよ、変えても」
「ありがとー」

チャンネルが歌番組に変わる。流れているのは、聞き覚えのある曲だった。



<了>
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