第137話 城山を眼下に(1)

文字数 998文字

 殿様が見上げたであろう城山を眼下に見下ろしている。
水の如く時代は流れているのだ。城下町は春雨と黄砂で煙りの中。
静かである。静寂をピーポーが破って走る。どこへたどるのであろう。
ご無事であれと願う。

 どうして摩天楼を眺める羽目になったのか。
 ピーポー、ピーポーを間近で聞いた。その上寝ている下敷きが固くて冷たい。それはストレッチャーの上だったのだ。十四日十時ごろ朝の膳に着いたが、食欲は無い。
ほんの少し食べただけで立ちあがった。眩暈がしてふらっいて、そのままベットへ、大仰に言えば倒れ込んだ。目眩がするから目を瞑っていたら眠り込んでしまっていた。十四時、次男に揺り起こされた。私の呂律を聞いて、救急車が来て寝袋のようなものに包まれて運ばれたエレベーターまでは覚えている。己の乗っている救急車のピーポーと車のガタゴトで目が醒めたようだ。車の中では隊員名前を聞き続ける。露れろれと答えた。グーチョキパーを繰り返した。S病院のストレッチャーに移されると身ぐるみ脱がされて、紙のおしめを履かせられた。おしめは肌にやさしく、温かかった。「トイレにゆきたい」といえばおしめにぅぃするように指示が出ている。「嫌だ。出来ない」深夜二時トイレに連れて行って貰った。これで波乱に暮れた脳梗塞の闘病の1日目は終わた。
 3日目、主治医の回診が早いので、それまでに起きて身辺を整えておきたい。
そこで6時起床、カーテンを開けた。
 右脳に梗塞があるから左の手足にまひが残る定説らしいが私は麻痺はない。
頭のふらづが気になるところだ。
 城址の堀のほとりに立つ高層ビルが夜を徹して競い輝いていた。阿波の摩天楼だ。
この夜景はもう見たくない。
 身体がだるいと思ったら熱がでた。熱と言っても三十七度ほどの熱。
睡眠に少し障害あり。早朝、レンタルの着衣を着替えた。

 転院なしに五月七日に退院が決まった。色々な方に随分お世話になった。
 息子たち夫婦にも要らぬ心配をかけた。

 三交代制という看護師の勤務。名前がなかなか覚えられないうえ、顔と一致しない。
いじわるばあさんの本領を発揮して「お名前は」優しくぼーっと聞く。すぐ手帳を広げる。
「書いたら困ります」「どうしてかのう。年寄りはすぐ忘れるけんなぁ」
看護師は機嫌が悪くなった。悪年も取れない世の中になったと、いみじく感じている。

 差し入れのぼた餅を食べて元気が出た。リハビリをがんばろう。4/26日



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