第9話 湯田温泉

文字数 1,273文字

成瀬川るるせ
2023年6月18日 05:23




雨が降ったり止んだりしている。屋根付きの足湯に浸かりながら、桐乃さんは「贅沢な時間を過ごしていますねぇ」と、言い、「そうですねぇ」なんて僕は返して、それからしばしの沈黙。
二人で足湯に浸かりながら聴く雨音は、人生生きていて良かったな、と思うに足る。そういうイベントだった。













6月14日、僕は桐乃さんとお会いした。新山口駅のホーム内で待ち合わせをして、一路、湯田温泉へ。ここには白狐伝説があり、温泉と結び付いているので、街中至るところに白狐をかたどったモニュメントがある。
ちなみに白狐には「ゆう太くん」と言う名前が付いてマスコットキャラクターになっている。

中原中也記念館を二人で観て、たんまりと買い物をしてから記念館を出る。中原中也記念館は中也の生家である中原医院跡地に建てられている。

記念館を出て、「中也通り」と呼ばれる道を通って、井上公園へ。













井上公園は、長州ファイブの一人、井上馨の生家跡である。京都から、七卿の一人、三条実美が身を寄せていた場所でもある。
ここには、中原中也の詩「帰郷」の一節が刻まれた詩碑が建っている。



その日は開いてなかったけど、井上公園には「何遠亭」という建物があって、「ここの庭の池がわたしのオススメなんですよー」と言うので行ってみる。大きな鯉が何匹も泳いでいる素敵な池だった。「ここのヌシの鯉は、うちの猫より大きいんですよー」と言うけど、ヌシ以外の鯉よりは桐乃さんの飼い猫大きいってことだよね? どんだけ大きいの(笑)。

まあ、それはともかく、丁度よく井上公園内の足湯には誰もいなかったので、僕らはその足湯に入ることにした。





足湯、二人の足の記念撮影をしたんだけど。そう言えば僕の足に黒いの付いてて。これは冬用の厚い靴下をはいていたので、毛玉がついていたのです。その日は山登りするってんで、足のショックを吸収しやすいように厚い靴下をはいてきて。写真、面目ない感じになったかもしれない。気付かなかった僕は本当にだらしないなぁ、と。

はい、それはともかく。

AM10:00をちょっと越えたくらいに湯田温泉についたのに、PM1:30頃まで僕らは足湯に浸かってとりとめもない話をずーっとしていた。その間、足湯は二人の貸切だった。
何度も言うようだが、贅沢な時間とは、こういうのをそう呼ぶ。
二人はどんな話をしたか。
それはNOVELDAYS版に書こうと思う。

ただ、中原中也記念館で中原中也を知った桐乃さんはポツリと、
「るるせさんと中原中也がダブって見える」
と言ったことだけは今、ここに書いておきたい。
そうだね。
特に記念館で中原中也の「四行詩」って作品を知った桐乃さんなら、確かにそう思うだろう。
再起出来なかった夭折の詩人と、自ら夭折しようとしたけど生き残ってしまった僕。
中原中也の父が井上馨の碑を建てた井上公園で僕は、ふと詩人の人生と僕の人生を想う。
だが、それは旅行記のスケッチと趣きを異にするので、場所をNOVELDAYSに移して書こう。
鋭いことを突く桐乃さんと出会えて、本当に良かった。ありがとう。



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登場人物紹介

桐乃桐子:孤高の作家

成瀬川るるせ:旅人

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