第5話 一つの名刺

文字数 1,191文字

うぅ……眩しい……。
「望愛!起きたのね!」
「ん?ママ?」
何か私寝てる。体を起こそうとするけど……あれ?動かない?
「無理に体を起こさない方がいいわよ。」
ママの声が聞こえる。目だけ動かして、周りを確認。白い壁、薄ピンクのカーテン。いつもは布団なのに、ちょっと地面から浮いてる感じ。心配そうなママの顔。
「ここは……?」
「病院よ!覚えてないの?」
「病院……。」
身に覚えが無さすぎるんだけど。っていうのが顔に出てたみたい。ママがちょっとため息をついて言った。
「救急車で搬送されたのよ?極度の腹痛と意識不明で。覚えてないの?」
「あ!」
やっと思い出した!私お腹痛くなっちゃったんだ。それも、萌愛の事務所の前で。
「ねえ、望愛?」
「ん?」
「萌愛の事務所の前にいたみたいね。」
「あ……。」
バレちゃった……。ママが仕事行ってるから、それまでに帰ってくるつもりで行ったのに……。思わぬ所でバレちゃったよ。やばすぎる。
「ここ病院だし、あんまり大声出せないけど。」
ママはそこで一息つくと、口が裂けるぐらい口角を上げた。にこーって笑う。これは怒ってる時の顔。
「ママに秘密で外に出掛けて、位置情報のアプリまで切った。」
そう言いながら、ママは自分のスマホと私のスマホを出す。そのままママのスマホで、私の位置情報がオフになっていることを見せる。それから、私のスマホで解除ボタンを押し、パスワードを入力。私の位置情報がオンになった。っていう一連の動作を、にっこにこの笑顔でやるから、もう怖いったらありゃしない!!
「望愛?位置情報切るパスワード、何で知ってるのかな?」
「えーと、それは……。」
ママの手帳を覗き見して、パスワード覚えたとか言えないし!!
「一週間スマホ没収ね。」
「えーーー!そんな!!!!」
「うるさいわよ?静かにしなさい。」
段々体中に感覚が戻ってきて、起き上がれるようになった。でも、素早い動きは取れない。スマホに手を伸ばすけど、私の手は虚しく宙を切るだけで、私の愛するスマホはママのバックの中に姿を消した。あーーーー!一週間もスマホとお別れなんて!そんなひどいこと無いよ!
「はい、これ。」
伸ばした状態でベッドに置かれてた私の手に、ママが小さな紙をのせた。小さな紙……手のひらサイズの電子機器じゃなくて。
「これ何?」
言いながら、裏表確認する。……これって名刺?
「望愛を助けてくれた人の名刺よ。」
「私を……。」
私を助けてくれた人。あの時、声をかけてくれた人だ。
「今日は一日入院して、明日に帰れるみたい。明日家帰ったらお礼の電話しなさい。」
「はーい。」
名刺には、名前と連絡先、それから会社が書いてある。名刺なんてもらったの初めてで、テンション上がるなー。
「その人、モデル事務所の社員さんなのね。」
「え、萌愛のとこの?」
「また違うみたいよ。」
「ふーん。」
この人との出会いが、私の人生を変えるなんて、まだ誰も知らない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

秋山望愛(のあ)

クラスで顔が可愛いと有名。


秋山萌愛(もあ)

そこそこ人気のモデル。

かっこいい路線で売り出している。

七川優花

望愛のマネージャー。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み