シルバーウィーク

文字数 424文字

 丁字路の手前でふと足を止めると、つきあたりにカーブミラーがあった。
 角度を変えたふたつのミラーは左右のわかれ道のさきを映し、その鏡面のなかにはそれぞれ見知った懐かしい顔がならんでいる。
 片方の鏡には、やさしく微笑む亡くなった祖母の姿が――。
 もう片方の鏡には、泣きじゃくる愛しい妻と娘の姿が映り込んでいた。
 ……そうか、私は旅行中に事故に巻き込まれて。
 だとすれば、選ぶ道はひとつしかない。私は迷うことなく、妻と娘が待っている生還の道へと進路をさだめて歩を進めてゆく。
 すると角を曲がりきったところで、もと来た道から死神の囁く声が聞こえた。
「残念、どっちも不正解。正解はこっちでした」
 旅先で大規模な列車事故があり、私と私の家族を巻き込んだ大勢の被害者が出たことを知ったのは、私が地獄の淵にたどりついたあとのことだった。
#ホラーポエム




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