第6話 式部

文字数 701文字

 敦康親王は、七つにおなりだ。たいそう利発でおかわいらしく、わたくしを「母君様」と呼び、慕ってくださる。絵をお描きになるのがうまく、髪が長くうつくしい十二単を着た女君をお描きになって、「これが母君です」などとおっしゃる。お子のいらっしゃる毎日が、こんなに楽しいものだとは知らなかった。

 そんな折、父が訪ねてきて、「たいそう珍しいものが手に入りましたよ。まずは、中宮様にご覧いただこうと思って。」などと言ってご本を持ってきてくださった。

 いづれの御時にか、女御更衣あまたさぶらひたまひける中に、いとやむごとなき(きは)にはあらぬが、すぐれてときめきたまふありけり。はじめより我はと思ひあがりたまへる御方々、…

(どの帝の御代のことであったのでございましょうか。ご身分の高い方ではございませんでしたが、たいそうなご寵愛を受けて時めいていらっしゃる姫君がいらっしゃいましたのでございます。帝にお仕えする初めから、自分こそはご寵愛を受けるものと思い込んでいらっしゃるあまたの姫君様方…)

 父が帰ってすぐに読み始めたのだけれども、あまりの面白さに夢中になってしまい、あっという間に読み終えてしまった。この続きが読みたいと文を送って催促した。すると、続きは、この方が書かれると、女房を一人送ってこられた。
 たいそう落ち着いた方で、わたくしに学問を教えてくださるし、物語の続きも書かれるということだ。もともと、わたくしの女房達は教養のある美人ぞろいで、一条帝もそれを目当てにいらっしゃっているような向きもあるのだが、この方が来てくださって更に拍車がかかった。名を(とう)の式部と名乗られた。(紫式部は、後の人がつけられた名です。)
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