プロローグ その2

文字数 1,111文字

 ミラー張りの高層ビル。その入り口手前で車が止まった。
 降りると右手側にサンクティオ社と書かれた石碑の様な物が鎮座していた。
「で、でかい。流石は超一流企業」
 サンクティオ社は表向きには製薬会社として有名であり、数年前から様々な企業を飲み込み、多くの分野でも上位に君臨する。
「企業の規模で比べればサンクティオよりも大きな物は無いだろうな。だが、実力というか技術でサンクティオに肩を並べられる企業がある。それが向かいの」
 振り返るとサンクティオ日本支社と同じほどの高さを持つ高層ビルが聳え立っていた。しかし、横幅が日本支社よりも大きい。
「アラガミ、新しい神と書くらしい。一昔前にある裏組織が潰れてから急に台頭し、サンクティオと比肩するほどになった。表向きでも裏向きでもサンクティオにとっては邪魔らしい」
 裏向き、サンクティオに軍事部門があってアラガミにもそれがあるらしい。表向きの事業からもアラガミの強みと何を軍事に転用しているかが俺にも何となく分かる。
「本社をライバル企業の支社の前に造るとかほんといい性格しているよ」
 崩月さんは微笑を浮かべるとビルに向かって歩を進める。
「一応、オフィスは上階だが待機所と訓練室は地下にある。見ていくか? 将来の職場でも」
 白木が崩月さんを睨みつけると崩月さんは肩を竦めてみせる。
「そんな時間は無いそうだ」

          ***

「ようこそ。サンクティオ日本支社、護衛部部長室へ」
 部長室は大きめのディスク、その前に円卓が置かれている。
「その中央にホログラムを映すんだが、百聞は一見に如かず。見ていくと良い」
 スモークガラスが完全に太陽光を断つと円卓中央に大きめのボールが浮かんでいる。
「この球体が地球で、ピンが打たれている所で何があったかという情報が埋め込まれている。そこのピンの一つを触れてみるといい」
「え?」
 白木さんと思われる声が崩月さんを諫めようとしているのか、動きが起こっている。
 しかし、俺はその内の一つのピンを触れた。
 ポワンと一つ音が鳴ると、写真と文章がいくつか展開される。
 『夢の世界実験』と名が打たれたファイルだった。
「百件以上のファイルからそれを選ぶとは、ククッ」
 崩月さんが今までとは雰囲気の違う声で喉を鳴らす。
「これを残している私もどうかと思うのだがな」
 理解が追い付かない。しかし、拒否反応の様な頭痛は起きていない。
「まるで幼子に物を教えている様な気分だが、頭がパンクしていない様で何よりだ。休憩と言うわけではないが、隣の部屋に君のための荷物を運ばせた。アンドロイドメイドに説明を受けて来るといい」
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