③生命中心主義の概略

文字数 1,224文字

表2 生命中心主義の環境倫理学上の位置付け
拡張の方向 名 称 道徳の対象
↓ 人 間 中 心 主 義 (Orthodoxanthropocentrism)
人間
↓ 動物中心主義(Zoocentrism) 動物
↓ 階 層 生 命 中 心 主 義 ( Hierarchicalbiocentrism)
全生物(生物の中で価値の階層がある)
↓ 平 等 的 生 命 中 心 主 義 ( Egalitarianbiocentrism
全生物(全生物は平等)
↓ 生態系中心主義(Ecocentrism) 生態系(人工環境物含まない)
総合倫理(General Ethics) 生態系(人工環境物含む)
(Keller[38]p.11 図1.1を元に作成。日本語訳は著者による仮訳)

3 生命中心主義の概略
Atfield[7]によると、生命中心主義とは、すべての生き物がそれ自体の「善」および
固有価値を持っており、かつ道徳的配慮の対象となるべき、個々の生命を重視する立場で
ある。生命中心主義は 1970 年代から環境倫理学で発展したテーマで、アルベルト・シュヴ
ァイツアーの「生への畏敬」思想及びマハトマ・ガンジーが採用した「アヒンサー」11思
想の影響がある。現在では、生命中心主義の様々なバリエーションがある12。本論文で論
考するのは Paul W. Taylor の 1986 年の著書「Respect for Nature」(Taylor[76])が立
脚する平等的生命中心主義13である。本論文では特に断りがない限り、平等的生命中心主
義のことを生命中心主義と言うことにする。このうち、固有価値については重要な概念で
あるため、補足説明する。まず、国際法では、生物多様性条約の前文に「締約国は、生物
の多様性が有する内在的な価値・・・を意識し」(地球環境法研究会編『地球環境条約集 第

【11 生き物を殺したり害したりすることを禁止するジャイナ教、仏教などの行動規範。Atfield[7] p.97 を要約。ヒンサーはアヒンサーに変更した。
12 生命中心主義思想のバリュエーションにはいろいろあり、著者と()内に特徴を記すと、シュヴァイツアー(生への畏敬)、ロッドマン(テロス、固有価値)、テイラー(生命尊重:Respect for Nature)ステルバ(sefl defence)、グッドパスタ(価値論、ecocentric)、ロルストン((絶
滅危惧)種の尊重)、ルートレイ(固有価値)等があげられる。このほか、宗教、法令にも関連が見られ、たとえば、宗教ではアニミズムに見る生命尊重、日本的仏教における生き物への慈悲心や、キリスト教における生命保護思想、法令には、律令、生類憐みの令、動物愛護法、国際法 絶滅防止に関する条約、生物多様性条約等があげられる。
13 平等的生命中心主義は生命圏平等的生命中心主義と言われることもあるし、単に生命中心主義ともいわれることもある。】
7頁
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