七 茂木殺害現場検証

文字数 836文字

 十二月十九日、日曜、午前十時。
 また江東区の廃工場から、潰れたパイプ椅子に座った男の死体が見つかった。前回、変死体が発見されたのは一ヶ月ほど前の十一月二十一日、日曜、午前十時だ。
 今回の発見者は、また、廃工場から離れた住宅地に住んでいる小学生だ。二度も同じ殺害現場を目撃すればトラウマになってしまう。
  
「死因は前回と同じです。引き千切られた股間からの失血死です。
 舌も鼻も耳も焼き切られて両手を潰され、陰茎と睾丸は引き千切られ、椅子に座ったまま、あそこから落下した。そして腰と背骨を骨折し、陰茎と睾丸は引き千切られて出血したままになった。今回も凶器は不明です・・・。
 死亡推定時刻は三日前の十二月十六日木曜。午後十時です。
 今度も、遺留物は見つかっていません・・・」
 検視官は城東警察署の大嶋警部(係長)にそう報告した。

「被害者は元警視庁監察官の茂木進です。三日前から行方不明になってました。
 犯罪歴は公然わいせつ(痴漢)、警察官に対する暴行と殺人未遂です」
 茂木の指紋を調べている菊川刑事が大嶋警部にそう報告した。
「報復殺人の可能性がある。
 菊川。この周辺を聞き込みして、茂木の痴漢被害者を調べてくれ」
 大嶋茂樹警部は、痴漢の被害者かその家族が犯行に及んだと推測した。
「了解しました」

 被害者を殺傷した凶器は不明。犯人の遺留品は無い。
 プロの犯行だ・・・。犯人は捜査に詳しい人間だ・・・。
 今度も聞き込みで何も出ないだろう・・・。
 大嶋茂樹警部の脳裡に、過去の殺人事件に関する数々の調書が浮んだ。

 前回の被害者の身元は、未だに不明だ。・・・。
 茂木も同じ手口で殺害された。・・・。
 過去に、今回のような残忍な殺害事件は無い・・・。
 痴漢に対する報復殺人か?
 それとも、もっと根の深い、我々の知らぬ事件に対する報復か?
 いったい、どんなヤツが、何の目的で殺害したのだろう?
 事件を解決に導く物証は無い・・・。
 大嶋警部はどのように捜査したらいいか、考えが浮ばなかった。
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