第4話  同胞

文字数 919文字

 梅雨になった。
 その日は、朝からしとしとと雨が降っていた。
 だが、午後から急に雨足が強くなり、土砂降りとなった。

 俺は、営業で得意先廻りのため都内にいた。
 次の交差点を渡り、裏道を抜ければ今日廻る予定の一つである得意先の建物がある。
 傘は持っていたが、かなり濡れてしまった。

 交差点に着いたので急いで渡ろうとしたが、直前に信号が赤になり立ち止まった。
 信号が赤になる前、傘を持った小学2、3年生ぐらいの男の子が、急ぎ足で横断歩道をこちらに向かって来ていた。
 ところが、その子がまだ交差点を渡り切らないうちに信号が赤になった。
 土砂降りのため、辺りが暗くなったようだった。
 視界が悪くなり、雨音もさらにひどくなった。

 俺は、( 危ない・・早く来い )と思いながら見ていたが、その子は急に立ち止まり、顔を上げて交差点の中を凝視した。
 その子の目の前にトラックが迫っていた。

 一瞬だった。

 俺とその子は、3mほど離れていただろうか。
 俺は飛び出し、その子を守るように抱いた。
 ドーンという音が耳に大きく響いた。
 俺とその子はトラックに撥ねられた。

 ( 馬鹿だなあ、俺は・・間に合う訳が無いのに飛び出して・・でも、この子だけは何とかして助かってほしいなあ・・・いや! いやいや、おかしいだろ、こんなに長く考えられるはずが無いだろ!?? )

 ( そうですね、やっと私に気付いてくれますかね・・・ )

 俺は子どもを抱き、宙に浮いたままその女性を視ていた。

 ( あなたは? )

 俺は頭の中で呼びかけた。
 何故かそれで十分通じると分かっていた。

 ( 同胞です )

 ( ??? )

 ( 今からあなたと合一(ごういつ)します。それで全て分かります・・ )

 女性は光の玉になり、俺の中に(はい)った。
 不思議と何の不安も無かった。

 俺は意識を失った。

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 合一(ごういつ)という言葉が出てきましたが、意味は、「主な登場人物(第一幕)」の最後の方の用語解説に載せています。
 第8話で詳しく述べますので、読み流されて結構です。
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