第6話 源流思想 キリスト教

文字数 1,378文字

 ナザレの大工ヨセフとマリアの子、イエスのことは聞いたことあると思う。今日は、律法の解釈と反発の観点からキリスト教について説明したいと思っている。

安息日(あんそくび)の掟

 ユダヤ教には、安息日っていう労働してはいけない日があるんだけど、イエスはこれについて、安息日は人のためにあるものであって、人が安息日のためにあるわけではないって考えだったと伝えられている。さらに、神は安息日でも働かざるを得ない貧しい人も愛していると説いたらしい。

復活信仰とキリスト教の成立

 で、こうした考えは保守層にはすこぶる評判が悪く、告発され、十字架の刑に処せられてしまう。しかしながら、処刑された後、イエスは復活し、人々の前に現れ、天に昇っていったと信じられ、キリスト教が成立することとなった。ローマ帝国でも、最初は弾圧されたけれど、イエスは救世主(メシア、キリスト)であるという信仰が広がっていった。

黙示録の影響

 新約聖書が欧米に及ぼした影響はかなり大きいんだけど、ヨハネの黙示録なんかも大きな影響を与えたって考えられているね。この文書には、キリストの再臨、ハルマゲドン(最後の戦い)などが象徴的に描かれている。
 大江健三郎の作品はあんまり読んだことないんだけど、ある本に「敗戦の現実に立ち、終末観的ヴィジョン・黙示録的認識を、その存在の核心におくようにして、仕事を始めた人びとこそを戦後文学者と呼びたい」とか書かれてあるそうだから、現代の著名な日本人作家にも影響を与えたっていえそうだね。
 また、キリストの再臨について、大澤真幸(おおさわまさち)って人は、ハイデガーの思想を参考にしつつ、それは、決定的な出来事の後の視点から、過去を振り返る視線こそ深い倫理性を人間から引き出す例だとしている。大澤によると、メシアであるイエスはすでに到来し、僕らはイエスによる十字架上の死により罪をあがなわれた状態にあるととらえることで、それにふさわしい生き方をしなくてはならないと考えるようになるそうだ。
 まあ、新約聖書が与えた影響は大きいってことだけど、大澤の考えはどこまで妥当なんだろうか。大澤のように理解することで、自分の生き方を改める人もいるだろうけど、そうしない、あるいは、なかなかそうできない人もいるだろうから、可能性の一つってところだろうか。

『薔薇の名前』

 文学への影響ってことで思い出したんだけど、ウンベルト・エーコの小説『薔薇の名前』には、信仰のあり方を主題とする物語が描かれているらしい。
 ベネディクト修道院で修道士が変死していく事件が起きて、ネタバレすると老修道士ホルヘが、図書館に収蔵されているアリストテレスの『詩学』の特定のページに毒を塗っていたことが原因だったんだけど、ホルヘがこうしたことには理由があった。
 ホルヘは笑いは信仰を損なうものだと考えていたんだけど、聖書につぐ権威があったアリストテレスの『詩学』には、喜劇が生み出す笑いを肯定的にとらえる箇所があって、それを知ったホルヘは、それが知られないように、アリストテレスの喜劇論を読む者が死ぬように細工をしていたんだ。
 けっきょく、エーコは、この作品で、笑いの抑制は信仰を貧しくするものであり、その解放的な力を認めることで、信仰は豊かになるってメッセージを伝えようとしたらしい。いきすぎた禁欲主義の信仰を批判する執筆意図もあったのかもね。
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