第210話「怨霊の巣窟」

文字数 3,320文字





        ―PM9時30分―


           《立ち入り禁止区域》

····ぬ

わしが此処に来た理由、それは―――――――――

いつも見回りにきておるからだ
····えっ?
ご覧の通り、この場所はこんな有り様なのだ。いつ人が来て影響されるか分かったもんじゃない
で、でも此処は管理された場所ですし、陰陽師の方もいるんですよね?
····まぁ、確かに管理はされているが、名ばかりだ。管理局は瘴気で近寄れぬし陰陽師とて直ぐに駆けつけられると言う訳でもないからな
···········
····黒鉄さんにとって此処は大切な場所なんですね――――――
·······まぁ、そうかもな
思い出が沢山詰まった場所である事には違い無い―――――
············

ホシ猫は来ないのですか?

っっ!!!
·····何だ、夜叉丸――――

ホシ猫に会いたかったのか?

·····私がですか?
····だから聞いてくるのだろう?
·····私は別にホシ猫に会いたいとは思っていません。それから――――
私の名前は「桐生 海弦」ですよ
ぬっ、それは失礼した

カイトか―――――、良い名だな

············
まぁ、取り敢えずホシ猫の事はまた改めてお伺い致します――――
····今は何より、この場所の問題を解決しないと
···········
解決と言ってもな····

陰陽師ですら手を焼いておると言うのに――――――

陰陽師とは、櫻井家の事でしょうか?
うむ
···百鬼である我が言うのも何だが、櫻井家は志す所にイササカ生温い部分があるのう
······え?
········まぁ、彼らは桐生家とは違って慈悲深い方々だからな
どう言う意味なの····?
櫻井家は百鬼であっても、全てを滅さず出来得る限り救いたいと願う事で十二天将の力を得ているんだよ
····あっ



そうか····


そう言えば伊吹さんもそうだった

まだ出会ったばかりの頃、彼は仕事の依頼者である男性が鬼化したにも関わらず、殺す事を最後まで躊躇っていた――――――――

自分の命だって危うかったのに···

···あの時は結局、夜叉丸が駆け付けて消滅させたんだよね···


···玄宥様もそう言われて見ればそうね

とても優しくて慈悲深い方だからこそ、孔雀明王様とも親しいみたいだし


櫻井家が、百鬼すらも救う事で百鬼の力を借りていたとは――――



····なるほど
しかしな、冥界の蓋がガッパリと開いている所の修復すらも出来ぬのか?
···········
えぇっ?!?!
めめっ、冥界の蓋····っ?!

····て何?!

··············
····昔は櫻井家の娘が鬼門を閉じ、それに綻びが生じた後も同じように鬼門を閉じていたのだが―――――
···その綻びは年々酷くなる一方で、瘴気が漏れ始めた事で鬼門を閉じることが出来なくなってしまったのだ
····だから結界を周囲に張って、それらを外に出さないようにしていたのね
·····だが、行く行くはその結界すらも同じ末路を歩むことになるのだろう
その通りだ

アレらが外に出たらもはや手に負えん

人々は、いとも簡単に喰われるか鬼化するのは目に見えておる
····そうなると、サスガにその先に未来は視えないなぁ―――――
············

カイト――――――

·····大丈夫
そんなに心配しなくても、俺がいろはとの未来を諦める訳がないだろ?
っっ!!

ドクン――――ッ

···ただ、今回はかなり気合い入れないとダメな奴だから、いろはの寿命管理を白紙に戻さないと···
·····え?
念には念を····だよ

今回はいろはを確実に守ってやれる保証が出来ないから···

····ふん

我が守るに決まっておる

·····だとしてもだ

この先は怨霊だらけの巣窟――――

何があるか分からないだろ····


·····意外と慎重な奴だ
俺はいろはの事だけは常に慎重なんだよ
···········
····まぁ、本当は嫌なんだけど
···どうして?
だって、せっかく同じくらいの年齢になってきたのに···、また俺だけオッサンになるんだからさ···
····フフ
····カイトは年齢よりも遥かに若く見えるから大丈夫だよ



····もう、本っ当にどこまで可愛いらしい人なんだっ


年齢なんて気にして無いって言いながら、やっぱり一緒に年を取りたいんだね――――――



いろはいつも可愛いから、年をとってもあまり変わらなくてハラハラするんだよなぁ―――――
えっ?!
か、可愛いだなんて····っ
····何で照れてるんだ?

いつも言ってるのに····

そ····っ
············
···········
ハイ、ソコマデ
っっ!!!
お主ら余裕だな

こんな瘴気だらけの場所でいちゃつくとか信じられん

いっ、いいいいちゃついてなんかありませんっ!
そうですよ?

こんなものイチャイチャには入りませんが?

·····ハァ〜

櫻井家と伊吹家よりも酷いな

ま、いつもの事だ·····
···········っ?!
カイト、夜も更けてくるぞ

さっさと中へ入らぬか

····あぁ

早く終わらせて帰るとしよう

っ!









          ―PM10時05分―


         《立ち入り禁止区域内》

···········
··········
·····ハァ

まるで無法地帯なのだ

うーぬん

冥界から出て来ている怨霊達が結界に体当たりしては消滅しておるのぅ

···なるほど、それを永遠に続けておれば結界などあっという間に綻びるな
············
·····いろは、ここから先は目と鼻の先に怨霊がいる
心の中にまで入って来るヤツがいるから気を付けろよ
う、うん····



····何だろう、さっきから耳が痛い


怨霊の声なのか騒がしくて仕方がないのだ――――

大勢が一気に叫んでいるかのよう···

でも一つ一つの声を聞き取ることは出来ない

それはとてつもなく煩くて耳を塞ぎたくなる程だった


カイトは何とも無いのだろうか?



····カイト―――――
······ん?

どうした、いろは

み、耳が―――――



と、その時だった―――――


急にカイトの顔がボヤケて見えて···

焦点が合わなくなった



···········
····いろは?!
大丈夫か?!
··········あれ



カイト―――――――、じゃない··


や、しゃまる······?



いろはっ

どうした?大丈夫か?!

·········っ?!



な、何なのこれは――――


夜叉丸が目の前にいる

それに····、私の心配よりも自分の心配をした方が良いんじゃないかってくらい汗をかいてるわ····


一体どういう状況なの···?!



いろはっ?!
わ、私は大丈夫···

それより、夜叉丸の方が辛そうだよ

·····は?
取り敢えず、汗拭かなきゃ――――



そう言って、ポケットからハンカチを取り出し、夜叉丸の汗を拭おうとした時だった―――――



待て―――――!
ビクッ



え····?


夜叉丸の汗を拭おうとした時、何故か夜叉丸は私の腕を掴んだ


ていうか···、あれ?

鬼化···しているの?

何故?

いつのまに?


でも···、相変わらず辛そうな表情は変わっていない―――――



や、夜叉丸····

貴方こそどうしたの?大丈夫?

何処か怪我でもしたの?!血が···

何を――――、

言っているんだ···いろは

····え?
や、夜叉丸····

どうしたの?怒ってるの?

····せっかく会えたのに
っっ!!!!
····いろは

やっぱり夜叉丸に会いたかったんだな

いろはっ!!!!
······え?

その男は夜叉丸ではなくカイトだ

·····カイ····ト···?
············
·············
いろは、大丈夫だ···

間違えても良いから、少し落ち着いて――――――――

っっ!!!?



や、夜叉丸が·····

こんなに優しい声で囁いてくれるだなんてあり得ない――――――


カイト····、カイト·····?

確かにこの優しさは夜叉丸じゃなかった気がする···


そうだ―――――

いつも優しくて、私のことばかり優先して自分を蔑ろにするような人····


それが、私の生きる意味になった人だ



っっ?!
····っうぅ

耳が痛い―――――

·····これはちーとばかり面倒な所に入り込んでおるようだのぅ
····ならば何とかせんか三屍蠱
············

ウーヌ

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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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