第15話 ミュラー・ザ・ギャンブラー②
文字数 2,562文字
このミュラー達とディーラーの駆け引きに固唾を飲む観客たち。
それをわき目にミュラーは余裕そうに煙草を吸いだす。
「早くしてくれ、それともこのカジノは客を選ぶつもりか?」
わなわなと肩を震わせる男のディーラー。
ずばりディ―ラーの予想は当たっていた。
この三人、イカサマをしていた。
正確にはミュラーが、である。ディーラーが投げる球、カジノにある全ての球に魔法を仕込んでいた。
では何故倍率の高い所にベットしないのか?
理由はミュラーの仕込んだ魔法では僅かにしかボールを操作できないこと、そして何より、高速に回転するウィ―ルは、ミュラーの目視では数字の判断は不可能であった。
だが色の識別はできる。だからミュラーは目立つ色の赤にベットした。
非常にシンプルなイカサマであった。
しかしカジノ側も馬鹿ではない、こういう輩のために対策はしていた。
颯爽と、妖艶な黒髪を揺らした美女がミュラー達の前に現れる。
「選手交代のようね、ディーラーチェンジを願います、お客様」
その気配にミュラーだけでなくジラール、オルマもヤバいと思った。彼女のその佇まいに、その雰囲気に圧倒された。三人は思った。
こいつ凄腕だ......。
彼女の登場に、いつの間にか集まっていた観客たちはざわめく。
「とうとうカジノを怒らせたな」「伝説のディーラーだ」「可愛そうに」「イカサマしてんのか?」「これでお終いだな」
気圧されたオルマが作り笑いをしながら、
「アタシも一回だけ遊んでいい? アタシのラッキーナンバーに置こうかなー、ハハ......」
オルマが新しく変わったディーラーの宣告後に数字の27に金貨を1枚だけ置いた。
ウィ―ルが先ほどよりも高速に回転し、ボールも素早く回転している。
そしてころころと転がるボールはなんと27の所に入る。
本来なら賭けが当たり喜ぶべきなのだが、オルマには怖気が走った。
そして美女のディーラーがオルマの眼前で妖しく微笑みかける。
「おめでとうございますお客様、お見事です! 倍率は38倍ですよ! 今宵はどうなってるんでしょうか!」
ままりの迫力にオルマが座ってた椅子から転がり落ちる。
勿論他の二人もビビる。
まさか自在にボールを動かせるのか!!??
実際その通りである。
彼女は回転するボールを正確に狙った所に落とせる腕の持ち主であった。
その妖艶なボール捌きで数々のイカサマした愚か者達を地獄の底へと突き落とし続けてきた。
そして彼女の次の獲物はミュラー達であった。
彼女のボール捌きではミュラーの魔法なぞ赤子の手を捻るようなものだ。
「もう行こうぜ.....」
ジラールが席を立ち、離れようとしたが、それは許されなかった。
群がるギャラリーたちが立ちはだかったのだ。
そして歓声を上げる。
「勝ち逃げは許さんぞ!」「このイカサマ野郎どもが!「天罰をくらえ!」
三人は観念した。
ゲームを続けるしかない。
ミュラーはガックリと項垂れ、大量の汗が床へと滴り落ちた。
その様子を上機嫌に眺めながら、美女のディーラーが情け容赦なくウィ―ルを回転させ、意気揚々とつげる。
「プレイスユアベットですわ!!」
ミュラーはおぼつかない手つきで手持ちの金貨を100枚を三つに分ける。
「これは母の生まれた日だ」
数字の3に金貨30枚ベットする。
「父の生まれた日に」
数字の14に40枚ベットする。
「妹よ......」
最後に数字の26に30枚ベットした。
「おいおい!ふざけんじゃねーぞ!全額ぶち込むとか、正気か!?」
ジラールは思わず狼狽える。オルマも堪らず。
「どうして記念日なんかにベットするのさ!?」
そのミュラーの動きを見て、彼女は勝ちを確信し、冷笑を浮かべ、高らかに告げる。
「ノーモアベットですわーーー!!!」
さぁ……奈落の底へと突き落としてあげましょう。
ウィ―ルの回転がゆっくりと止まる。
妖艶な美女がミュラーの顔を覗きこむように囁いた。
「今、どんな気持ちですか? 聞かせて下さい、貴方の断末魔を……」
回転が弱まったボールがゆっくりと数字が刻まれた先へと転がる。
その球の動きを、美女のディ―ラーはとろけるような眼差しで見つめる。
対照的に三人の表情は絶望に溢れていた。
時が止まったかのようにも思える長い瞬間、ボールはからからと円盤を回り、カンとぶつかる音と共に勢いを無くし、ゆっくりと、まるで水滴が跳ねるように動く。その動きはスローモーションしているかのように時間をかけて、数字が刻まれた先へと転がる。
その刹那、周囲は静寂に包まれていく。
落ちた先は……。
なんと数字の26であった。
ありえない!
そう驚愕する美女がミュラーの方に顔を向ける。
ミュラーは歪んだ笑みを浮かべながら、渾身のガッツポーズを振り上げた。
全てはミュラーの策であった。
カジノ側にボールに仕込みがあると思わせるための。
赤か黒かの二択しかできないと思わせるための。
実はミュラーは回転するウィ―ルにも魔法を仕込んでいた。
しかし小さいボールとは違い、大きいウィ―ルでは操作しようと魔法を発動させると魔力を激しく消耗してしまう。それではカジノ側にバレる可能性が高い。実際、今滴る汗は冷や汗でなはない。魔力消耗による疲れの汗であった。そのため始めはボールで勝ち続ける必要があったのだ。
このことはジラールやオルマにも伏せていた。
全てはこの瞬間を欺くために。
金貨1140枚を、ミュラーは掴み取った。思わず、唖然としていたオルマとジラールが歓声を上げてミュラーを二人で抱きしめる。
周りに群がっていた観客も、ミュラーが勝ったことに悔しがる者、囃し立てる者、口笛を吹く者、この後に続かんとする者と、一気に騒がしくなった。
膝をガクリと落とした妖艶な美女のディーラーに、ミュラーはすました顔で耳元で囁く。
「イカサマはバレなきゃイカサマじゃないんだぜ......」
勝負の敗北者への死体を踏みつけるような言葉が彼女の心に突き刺さる。人目もはばからず、狂ったかのように泣き叫ぶ美女。
どうやら断末魔を上げたのは彼女のようだった。
さっそうと三人はその場を立ち去った。
ミュラーは思いを馳せる。
ギャンブルは金を賭けるんじゃない、未来を賭けるんだ。
それをわき目にミュラーは余裕そうに煙草を吸いだす。
「早くしてくれ、それともこのカジノは客を選ぶつもりか?」
わなわなと肩を震わせる男のディーラー。
ずばりディ―ラーの予想は当たっていた。
この三人、イカサマをしていた。
正確にはミュラーが、である。ディーラーが投げる球、カジノにある全ての球に魔法を仕込んでいた。
では何故倍率の高い所にベットしないのか?
理由はミュラーの仕込んだ魔法では僅かにしかボールを操作できないこと、そして何より、高速に回転するウィ―ルは、ミュラーの目視では数字の判断は不可能であった。
だが色の識別はできる。だからミュラーは目立つ色の赤にベットした。
非常にシンプルなイカサマであった。
しかしカジノ側も馬鹿ではない、こういう輩のために対策はしていた。
颯爽と、妖艶な黒髪を揺らした美女がミュラー達の前に現れる。
「選手交代のようね、ディーラーチェンジを願います、お客様」
その気配にミュラーだけでなくジラール、オルマもヤバいと思った。彼女のその佇まいに、その雰囲気に圧倒された。三人は思った。
こいつ凄腕だ......。
彼女の登場に、いつの間にか集まっていた観客たちはざわめく。
「とうとうカジノを怒らせたな」「伝説のディーラーだ」「可愛そうに」「イカサマしてんのか?」「これでお終いだな」
気圧されたオルマが作り笑いをしながら、
「アタシも一回だけ遊んでいい? アタシのラッキーナンバーに置こうかなー、ハハ......」
オルマが新しく変わったディーラーの宣告後に数字の27に金貨を1枚だけ置いた。
ウィ―ルが先ほどよりも高速に回転し、ボールも素早く回転している。
そしてころころと転がるボールはなんと27の所に入る。
本来なら賭けが当たり喜ぶべきなのだが、オルマには怖気が走った。
そして美女のディーラーがオルマの眼前で妖しく微笑みかける。
「おめでとうございますお客様、お見事です! 倍率は38倍ですよ! 今宵はどうなってるんでしょうか!」
ままりの迫力にオルマが座ってた椅子から転がり落ちる。
勿論他の二人もビビる。
まさか自在にボールを動かせるのか!!??
実際その通りである。
彼女は回転するボールを正確に狙った所に落とせる腕の持ち主であった。
その妖艶なボール捌きで数々のイカサマした愚か者達を地獄の底へと突き落とし続けてきた。
そして彼女の次の獲物はミュラー達であった。
彼女のボール捌きではミュラーの魔法なぞ赤子の手を捻るようなものだ。
「もう行こうぜ.....」
ジラールが席を立ち、離れようとしたが、それは許されなかった。
群がるギャラリーたちが立ちはだかったのだ。
そして歓声を上げる。
「勝ち逃げは許さんぞ!」「このイカサマ野郎どもが!「天罰をくらえ!」
三人は観念した。
ゲームを続けるしかない。
ミュラーはガックリと項垂れ、大量の汗が床へと滴り落ちた。
その様子を上機嫌に眺めながら、美女のディーラーが情け容赦なくウィ―ルを回転させ、意気揚々とつげる。
「プレイスユアベットですわ!!」
ミュラーはおぼつかない手つきで手持ちの金貨を100枚を三つに分ける。
「これは母の生まれた日だ」
数字の3に金貨30枚ベットする。
「父の生まれた日に」
数字の14に40枚ベットする。
「妹よ......」
最後に数字の26に30枚ベットした。
「おいおい!ふざけんじゃねーぞ!全額ぶち込むとか、正気か!?」
ジラールは思わず狼狽える。オルマも堪らず。
「どうして記念日なんかにベットするのさ!?」
そのミュラーの動きを見て、彼女は勝ちを確信し、冷笑を浮かべ、高らかに告げる。
「ノーモアベットですわーーー!!!」
さぁ……奈落の底へと突き落としてあげましょう。
ウィ―ルの回転がゆっくりと止まる。
妖艶な美女がミュラーの顔を覗きこむように囁いた。
「今、どんな気持ちですか? 聞かせて下さい、貴方の断末魔を……」
回転が弱まったボールがゆっくりと数字が刻まれた先へと転がる。
その球の動きを、美女のディ―ラーはとろけるような眼差しで見つめる。
対照的に三人の表情は絶望に溢れていた。
時が止まったかのようにも思える長い瞬間、ボールはからからと円盤を回り、カンとぶつかる音と共に勢いを無くし、ゆっくりと、まるで水滴が跳ねるように動く。その動きはスローモーションしているかのように時間をかけて、数字が刻まれた先へと転がる。
その刹那、周囲は静寂に包まれていく。
落ちた先は……。
なんと数字の26であった。
ありえない!
そう驚愕する美女がミュラーの方に顔を向ける。
ミュラーは歪んだ笑みを浮かべながら、渾身のガッツポーズを振り上げた。
全てはミュラーの策であった。
カジノ側にボールに仕込みがあると思わせるための。
赤か黒かの二択しかできないと思わせるための。
実はミュラーは回転するウィ―ルにも魔法を仕込んでいた。
しかし小さいボールとは違い、大きいウィ―ルでは操作しようと魔法を発動させると魔力を激しく消耗してしまう。それではカジノ側にバレる可能性が高い。実際、今滴る汗は冷や汗でなはない。魔力消耗による疲れの汗であった。そのため始めはボールで勝ち続ける必要があったのだ。
このことはジラールやオルマにも伏せていた。
全てはこの瞬間を欺くために。
金貨1140枚を、ミュラーは掴み取った。思わず、唖然としていたオルマとジラールが歓声を上げてミュラーを二人で抱きしめる。
周りに群がっていた観客も、ミュラーが勝ったことに悔しがる者、囃し立てる者、口笛を吹く者、この後に続かんとする者と、一気に騒がしくなった。
膝をガクリと落とした妖艶な美女のディーラーに、ミュラーはすました顔で耳元で囁く。
「イカサマはバレなきゃイカサマじゃないんだぜ......」
勝負の敗北者への死体を踏みつけるような言葉が彼女の心に突き刺さる。人目もはばからず、狂ったかのように泣き叫ぶ美女。
どうやら断末魔を上げたのは彼女のようだった。
さっそうと三人はその場を立ち去った。
ミュラーは思いを馳せる。
ギャンブルは金を賭けるんじゃない、未来を賭けるんだ。