第8話 なぞの作者

文字数 2,405文字

 翌日の放課後。わたしとかりんは、美術部を直撃取材した。

「ああ、そういえば、あったわね」

 校舎裏にある銅像について聞いたところ、美術部の部長は興味なさそうに答えた。

「気にならないんですか? 」

 かりんが身を乗り出すと言った。

「わたしは、絵の方だから。彫刻はちょっとねえ‥‥ 」

 美術部の部長があくびをかみころすと言った。

「ねえ。この学校の卒業生だった校長先生に聞いてみたら? 」

 そこへ、同じクラスの美術部のジョシが来て助言した。

「それいいかも」

 わたしたちはさっそく、校長室へ向かった。

校長室のドアをノックすると、

「はい、どうぞ」という愛想の良い声が中から聞こえた。

緊張気味で、ドアを開けると、温厚そうな顔立ちの校長が窓を背に座っていた。

「あの。今、ちょっと、よろしいですか? 2、3お聞きしたいことがあるんです」

 わたしが、校長先生に用件を告げると、ソファに座るよう言われた。

「お茶持って来て」

 校長先生が内線をかけた後、事務の女性がお茶を運んできた。

「わたしに聞きたいこととはなんですか? 」

 校長先生が穏やかに告げた。

「あの。校舎裏にある銅像を製作した岩波伊佐武さんについてご存じですか? 」

 わたしが冷静に訊ねると、校長先生が、

何かを思いついたかのように本棚の前に立った。

「この人が、学生時代の岩波君です」

 校長先生が卒業アルバムを開くと、

岩波さんの卒業写真が載っているページを見せた。

わたしたちは、顔を突き合わせるようにして岩波さんの卒業写真を眺めた。

なぜか、全然、知らない人なのに、親しみを感じたからふしぎだ。

「岩波さんは今、どこで何をなさっているんですか? 」

 わたしが、校長先生に訊ねた。

「そういえば、最近、近状を報せるハガキが届かなくなった。

もう、美術の方はやめたんじゃないかな‥‥ 。

岩波君は地元の女性と結婚したそうだから、お子さんがいるかもしれない」

 校長先生が、卒業アルバムをもとあった場所に戻すと答えた。

「もしかして、岩波さんのお子さん、図書館の司書をしていませんか? 」

 わたしは一か八か言った。

「そうなんですか? 図書館ですか‥‥ 」

 校長先生が目を丸くして言った。

「なんだ、知り合いだったんですか」

 かりんが、わたしを横目で見るとつぶやいた。

「あの。せっかく、卒業生が寄贈したにもかかわらず、

どうして、目に付く場所に置いていないんですか? 」

 わたしの質問に対して、どういうわけか、校長先生の表情が曇った。

「ちょっと、待ちなさい。

岩波君の家族について聞いてまわるのはおよしなさい。

あの銅像はご遺族の意向を受けて、

近じか、撤去する予定になっているわけですから」

 校長室を出る間際、校長先生が、

わたしたちを呼び止めるときびしい表情で忠言した。

(遺族ということは、すでに、作者は逝去したというわけか‥‥ )

なんとなく、嫌な感じを覚えながらも、手がかりを探して図書館へ行ってみた。

「岩波さんだったら、今日は休みだよ」

 岩波さんの姿がなかったため、返却コーナーにいた職員に聞いた。

「どこにいるのかわかりますか? 」

 かりんが、その職員に聞いた。

「水曜日はいつも会合があるから、たぶん、白花神社の社務所にいるよ」

 その職員が親切にも教えてくれた。

 その後、久遠君に会えるかもしれないとほのかな期待を抱きつつも

白花神社へ自転車を走らせていたところ、かりんが逆方向へ向かい出した。

「ちょっと、どうしたって言うの? 」

 わたしが大声を出して聞いた。

「すみません。今から、塾なんです。ひとりで行ってもらえますか? 」

 かりんがふり向きざまに答えた。

(え~、嘘!? 2人の方が取材がしやすいのに‥‥ )

学生記者なくせして、わたしは人見知りが激しい方なのだ。

会合ということは、岩波さん以外にも見知らぬ人たちがその場にいるはずだ。

重い気持ちを背負ったまま、社務所へ向かって参道を歩いていると、

岩波さんが、ゆきえと楽しそうに話している姿が目に入った。

「あら? 」

 ゆきえが、わたしに気づくと片手を上げた。

「こんなところで会うとは奇遇だね」

 岩波さんが穏やかに告げた。

「会合は? 」

 わたしがそう訊ねると、ゆきえが「え? 」と小さくつぶやいた。

「今からだけど。もしかして、興味あったりする? 」

 岩波さんが、わたしに訊ねた。

「いえ、その。今日は、岩波伊佐武さんについてお聞きしたくて来ました」

 わたしが答えた。

「岩波‥‥ 伊佐武。ああ、そっか」

 岩波さんが思案顔で言った。

「もしかしたらもしかして、岩波さんのお父さんかおじさんだったりしますか? 」

 わたしがそう訊ねると、なぜか、ゆきえが咳払いした。

「たしかに、苗字は同じだ。だけど、伊佐武という名前の人物は、

わが岩波家には存在しないよ。もしかして、校舎裏の銅像を見たの? 」

 岩波さんが、わたしの顔をのぞき込むと言った。

「実は、取材しているんです」

 わたしが言った。

「お役に立てずにごめんね」

 岩波さんが告げた。

あきらめて帰ろうとしたところ、ゆきえがあとを追いかけて来た。

「ちょっと、なんてこと聞くの! 」

 ゆきえが、わたしの肩をつかむと詰め寄った。

「なんてことって?? 」

 わたしが面食らっているのもかまわず、ゆきえが仁王立ちして言った。

「あの人が答えるはずないでしょうが。

岩波伊佐武は、あの人の家にとってタブーなんだから‥‥ 」

「いったい、どういうわけなんですか? 」

 わたしが訊ねた。

(タブーってなに? ますます、気になるじゃない! )

「他人の家を詮索するのはやめなさいよ!

 今後一切、あの人には会っちゃだめよ、いい? 」

 ゆきえが目をつり上げると詰め寄った。

「伊佐武は、この神社の神主だけど何? 」

 聞き覚えのある声が聞こえた方向をふり向くと、

久遠君が神官装束姿で立っていた。

(白花神社の神主ということはつまり、久遠君のお父さんってこと??? )





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