第10話 白花3メンズ

文字数 1,282文字

  それから数日後の放課後。部活に出たら、光彦先輩が近づいて来た。

校舎裏の銅像を製作した作者の取材結果について

聞かれるに違いないと思って身構えていると、

「このあと、うちのカフェに来なさい」とだけ告げて、結果は何も聞かずに立ち去った。

「はい、わかりました」

 わたしはあっけにとられながらも返事した。

「一見、関心なさそうなのに、急に、話題を提供して来たかと思えば、

自分が言ったこと、すっかり、忘れている。ほんと、ふしぎな人よね」

 友美先輩があきれ顔で言った。

「カフェに来いと言われました」

 わたしが苦笑いすると言った。

「きっと、何か重要な話があるはずです」

 かりんが上目遣いで言った。
 
「ところで、聞き込みの方はどうだったの? 」

 友美先輩が聞いて来た。

「それが、校長先生からあまり、深入りしない方が良いと言われてしまいました」

 わたしがそう答えると、かりんが前のめりの姿勢で言った。

「こないだ、1980年代~2000年代のリバイバル展を見に行ったんですけど、

なんと、そこに、I・Iが描いた絵があったんです」

「へぇ、絵も描いていたんだ」

 友美先輩が感心したように言った。

「実は、I・Iが、久遠君のお父さんと同じ名前だったことがわかったんですけど、

その会場で、久遠君本人とばったり会っちゃったんです」

 わたしがすかさず言った。

「校舎裏にある謎の銅像から、2家の謎につながるとはすごいじゃないの」

 友美先輩が冷静に言った。

「やめてくださいよ。だいたい、名前が同じだからと言って、

久遠家と岩波家との間に何かあるわけがないじゃないですか! 」

 わたしが言った。

「もし、久遠先輩のお父さまが、I・Iだとしたら、

旧姓が岩波となるわけで、久遠家の婿養子になります。

つまり、岩波さんと久遠先輩はいとこ同士ってことですか? 」

 かりんが横から口を出した。

(あの2人が、いとこ同士? 言われてみれば、顔が似ている気がする)

「とにかく、あの銅像の製作者は、卒業生だったという内容で

とどめておくことにします。いずれ、絵の方も、美術館に問い合わせて

紹介して良いか聞くつもりです」

 わたしはうまいことまとめようとした。

おそらく、久遠君もうすうす、I・Iの正体が

お父さんではないかと疑っているのではないかと思う。

だからこそ、I・Iに関する記事が気になるわけだ。

「それが、妥当なところだわ」

 と友美先輩が引き下がる一方、「え~」とかりんが不満をあらわにした。

 その日の放課後。わたしはひとりで、星花カフェに立ち寄った。

「岩波さん」

 ドアを開けて中に入ると、カウンター席に、

岩波さんが座ってコーヒーを飲んでいた。

「あの、どうして? 」

 わたしが、岩波さんに歩み寄ると同時に、

光彦先輩がカウンターの中から姿を現した。

「I・Iの正体を知りたいだろうと思って、僕が呼んだ」

 光彦先輩がなぜか、岩波さんの代わりに答えた。

「それで、オレを呼んだわけか」

 聞き覚えのある声にふり返ると、久遠君が立っていた。

「ひさしぶり。まともに、顔を合わせるのは、あんたらが幼稚園の時以来だな」

 岩波さんが男2人に向かって言った。
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