Prologue「遺言を、義弟に」
文字数 1,033文字
もし、君がこれを聴いているのなら、義弟にこの言葉を伝えて欲しい。
俺はあと数分で、死んでしまうから。
*
今わかった、これが【死】だ。
戦場の街の中心部、煌びやかな装飾が施された地下の一室で、俺は銃口を突き付けられていた。
一つや二つじゃない、多数の……俺より下手な、素人が作った既成拳銃。
正面を向くと、上品なグレーのストラップスーツに身を包んだ細身の男の姿が見えた。
歳は中年期程度だろうか、華奢な体躯は彼を小さく見せた。薄く開いた瞳の色が黒く濃いのは、彼の意志が強いことを示しているのかそれとも逆か。
「残念だよ、夕季くん」
男が言った。
俺と目が合うと、彼は困ったような苦虫を噛み潰したような表情になった。
いや、笑ったのか?
喜楽のそれではない、むしろ逆の、つらそうな……
つらそう?
なぜだ?
俺の死なんて彼にとっては何でもない、有能な
ずっとそうして、殺してきただろう。
ずっとそうして、見捨ててきただろう。
自分さえよければいい、自分さえ生き残ればいいって……。
「君の弟は」
男の声が聴こえて我に返る。
顔を上げると、視線を落としたままの彼が話を続けた。
「朝季くんは、十六歳だったかな?」
「……知っているでしょう、そのくらい。この六年間徹底的に、管理してきたんだから」
俺の言葉に彼は僅かに笑みを浮かべた。
いや、困惑の表情か?
やはりわからない、彼の真意が。
「……っ」
抵抗してみようと掌に空気銃を作り出した途端、後頭部に強い衝撃が走った。
融合、生成……ダメだ、間に合わない。
あぁ、馬鹿なことしたな。他に方法があっただろう、いやこれがやはり最善か?
何がいけなかったんだろう、どこで間違えたんだろう。
大人しくしていれば生きれた、
傍観者でいられたならとても、楽しい街だったのに。
血で湿った掌でネームプレートを握りしめる。銀の冷たい感触が伝わって、少しだけ涙が出た。
言葉は無事に届くだろうか?
彼女に出会えるだろうか?
幸せになって、くれるかな?
「……残念だよ」
薄れゆく意識の中で、男の声が聞こえた。
次に耳に響いたのは、九年前に泣いた少女の声。
『また会えるよね、会いに来てね』
ごめんね、会いに行けなくて。だけど代わりに、だから、義弟が君を守るよ。
この物語はきっと、君にとって残酷なものになる。
だから、だけど、
一緒に、朝日でも見てくれたらいいな。
戦場という闇を抜けた先、白い光が差す場所へ二人でーーーー…