第2話 アルバイト始めてます
文字数 1,725文字
天の川総合高等学校 法律科 1年 高梨美和。
それが今の私の肩書だ。
何をしているのかというと、アルバイト真っ只中だ。
場所は恋愛法律事務所という駅ビルの3Fの一角のスペースを間借りしている小さな個人事務所である。アルバイトの私は、お茶出しや部屋の掃除などの雑務だけだが、ここにいるといろいろな相談事を聞けて人生のためになる。
うん、ぶっちゃけ面白い。
「夫もねぇ、もういい年頃だから遺言書を書いてほしいのよ。昔はあちこちに愛人がいるような人だから無用な争いごとは避けたいの。」
「あら!あなたも天の川総合高校の子?しかも襟のバッチがあるってことは法律科の生徒さんなのねぇ。」
そうなのだ。天の川総合高校の法律科では、未来の弁護士になれるようにと校章として襟に法律科であることを示すバッチをつけるのだ。よく知っているなと私が思っていると。
「うちの子も、普通科だけど天の川総合高校にいるのよ、名前は灯里っていうの。」
相談内容の話も一区切りついたのか、上司でもあり、この恋愛法律事務所の主でもある相澤琴音がふーっと息を一息ついて言った。
「旦那さんにも話を聞きたいのですが、可能でしょうか?」
「ええ。説得してみるわ。」
手を振りながら去っていった奥さんは静かに帰っていった。
「相澤さん、愛人がうじゃうじゃいる遺言書ってドロ沼じゃないですか?」
私がそういうと、相澤さんは少し面白げに、
「どうだろうね。」
と、微笑むのであった。
ーーー後日ーーー
「遺言書などいらん。」
「愛人なぞ、とうの昔にいなくなって、今はアイツだけだ。それなのになぜ遺言書など書かねばならないんだ。」
「ですが、奥さんが言うには複数の口座をお持ちでたびたび理由も告げづに朝帰りの日もあるとか。」
「む。それは。」
「正直におっしゃってください。」
「・・・灯里は、養子なんだ。」
「え。」
「アイツは子供が産めない体でな、ずいぶん悩んでいたものだ。だが、私が養子を迎え入れようと提案したんだ。それで孤児院から灯里を引き取って今に至る。」
思っていた以上にヘビーな話に場が静まり返る。
「朝帰りのことは・・・・これは秘密にしてほしいのだが、・・・・・灯里の・・・。」
「灯里さんの?」
「・・・ウェディングドレスを探しているんだ。」
「え!?灯里さん結婚するんですか!!?」
「まだ、相手もおらん!それに私の目の黒いうちは安っぽい彼氏など言語道断だ!!」
「ええ〜、矛盾してません?」
思わず突っ込んでしまった。
「養子に迎えるのが遅かったからな、生きているうちにウェディングドレス姿を見たいと思って服だけでも購入しようかずっと迷っているんだ。」
「なるほど。それで朝帰りですか。」
「ああ。恥ずかしいから飲み歩いているとでも言っておいてくれ。」
「奥さんにも相談しないんですか?」
「サプライズにしたいんだ。秘密にしてほしい。頼む。」
「秘密にするのならば、遺言書を書いてください。」
「それはっ・・」
「灯里さんが養子ということならなおさらです。旦那さんがいなくなったあと、親族からあらぬ攻撃をうけて奥さんも、灯里さんも困ることになると思います。」
「困ること?」
「血の繋がりのない人間に相続などさせない。とか。」
「なんだと!!家の子供をなんだと思っているんだ!」
「そういったケースは少なくないんです。ここは正式な法律事務所ではありませんがいろいろなお客様がいらっしゃいます。そういった偏見をもつ人も珍しくはないのです。」
「・・・・そうか。それならば仕方ない。遺言書を書くことにする。」
そう言うと旦那さんはいかつい顔をしながらしっかりとした足取りで帰っていった。
ーーーまた後日ーーー
「ありがとうございます。無事に遺言書を書いてもらえました。」
「こちらこそ今回は我が恋愛法律事務所をご利用いただき、ありがとうございました。」
「あの人ったら、真剣な顔で 俺はお前が思っているよりも一途なんだ なんて言ってきて、つい吹き出してしまいました。相談して本当に良かったです。灯里にも恋愛で困り事があればこちらに相談してみなさいと助言するつもりです。」
「いえいえ。本当に仲の良いご家族ですね。」
「ええ、幸せな家庭です。」
そう言って、奥さんは爽やかな笑顔で去っていった。
それが今の私の肩書だ。
何をしているのかというと、アルバイト真っ只中だ。
場所は恋愛法律事務所という駅ビルの3Fの一角のスペースを間借りしている小さな個人事務所である。アルバイトの私は、お茶出しや部屋の掃除などの雑務だけだが、ここにいるといろいろな相談事を聞けて人生のためになる。
うん、ぶっちゃけ面白い。
「夫もねぇ、もういい年頃だから遺言書を書いてほしいのよ。昔はあちこちに愛人がいるような人だから無用な争いごとは避けたいの。」
「あら!あなたも天の川総合高校の子?しかも襟のバッチがあるってことは法律科の生徒さんなのねぇ。」
そうなのだ。天の川総合高校の法律科では、未来の弁護士になれるようにと校章として襟に法律科であることを示すバッチをつけるのだ。よく知っているなと私が思っていると。
「うちの子も、普通科だけど天の川総合高校にいるのよ、名前は灯里っていうの。」
相談内容の話も一区切りついたのか、上司でもあり、この恋愛法律事務所の主でもある相澤琴音がふーっと息を一息ついて言った。
「旦那さんにも話を聞きたいのですが、可能でしょうか?」
「ええ。説得してみるわ。」
手を振りながら去っていった奥さんは静かに帰っていった。
「相澤さん、愛人がうじゃうじゃいる遺言書ってドロ沼じゃないですか?」
私がそういうと、相澤さんは少し面白げに、
「どうだろうね。」
と、微笑むのであった。
ーーー後日ーーー
「遺言書などいらん。」
「愛人なぞ、とうの昔にいなくなって、今はアイツだけだ。それなのになぜ遺言書など書かねばならないんだ。」
「ですが、奥さんが言うには複数の口座をお持ちでたびたび理由も告げづに朝帰りの日もあるとか。」
「む。それは。」
「正直におっしゃってください。」
「・・・灯里は、養子なんだ。」
「え。」
「アイツは子供が産めない体でな、ずいぶん悩んでいたものだ。だが、私が養子を迎え入れようと提案したんだ。それで孤児院から灯里を引き取って今に至る。」
思っていた以上にヘビーな話に場が静まり返る。
「朝帰りのことは・・・・これは秘密にしてほしいのだが、・・・・・灯里の・・・。」
「灯里さんの?」
「・・・ウェディングドレスを探しているんだ。」
「え!?灯里さん結婚するんですか!!?」
「まだ、相手もおらん!それに私の目の黒いうちは安っぽい彼氏など言語道断だ!!」
「ええ〜、矛盾してません?」
思わず突っ込んでしまった。
「養子に迎えるのが遅かったからな、生きているうちにウェディングドレス姿を見たいと思って服だけでも購入しようかずっと迷っているんだ。」
「なるほど。それで朝帰りですか。」
「ああ。恥ずかしいから飲み歩いているとでも言っておいてくれ。」
「奥さんにも相談しないんですか?」
「サプライズにしたいんだ。秘密にしてほしい。頼む。」
「秘密にするのならば、遺言書を書いてください。」
「それはっ・・」
「灯里さんが養子ということならなおさらです。旦那さんがいなくなったあと、親族からあらぬ攻撃をうけて奥さんも、灯里さんも困ることになると思います。」
「困ること?」
「血の繋がりのない人間に相続などさせない。とか。」
「なんだと!!家の子供をなんだと思っているんだ!」
「そういったケースは少なくないんです。ここは正式な法律事務所ではありませんがいろいろなお客様がいらっしゃいます。そういった偏見をもつ人も珍しくはないのです。」
「・・・・そうか。それならば仕方ない。遺言書を書くことにする。」
そう言うと旦那さんはいかつい顔をしながらしっかりとした足取りで帰っていった。
ーーーまた後日ーーー
「ありがとうございます。無事に遺言書を書いてもらえました。」
「こちらこそ今回は我が恋愛法律事務所をご利用いただき、ありがとうございました。」
「あの人ったら、真剣な顔で 俺はお前が思っているよりも一途なんだ なんて言ってきて、つい吹き出してしまいました。相談して本当に良かったです。灯里にも恋愛で困り事があればこちらに相談してみなさいと助言するつもりです。」
「いえいえ。本当に仲の良いご家族ですね。」
「ええ、幸せな家庭です。」
そう言って、奥さんは爽やかな笑顔で去っていった。