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活動報告

配水塔の天使

いつもアースフィアの戦記をお読みいただきありがとうございます。
現在連載中の外伝『使者と死者の迷宮』ですが、来週一週間(5/31〜6/4)は期末試験に備えた勉強のため、小説の更新をお休みします。急なお知らせとなり申し訳ございません。
大切な人と「無理はしない」という約束をしましたので、心身の健康を第一に考えて執筆を続けて参ります。
時間はかかりますが、完結までお付き合いいただけましたら幸いです。



子供の頃に、何か大きな存在が温かい視線を送ってくれているような気がしたことはありませんか? 気のせい? そうかもしれませんね。

私は平成初期、名古屋市南部の、白い配水塔が見える小高い丘で子供時代を過ごしました。
『呂』という漢字に少し似た、かわいらしい形の配水塔で、私はときどきその配水塔から向けられる力強く優しい視線を感じていました。

小学1年か、2年の頃です。
母が「お兄ちゃんが明日学校で使う○○行のノートを買ってきなさい」と言って、私にお金を渡しました。

私は一人、団地から長い坂を下って、個人経営の文房具屋さんに行きます。

ところが指定された行数のノートがたまたま売り切れで、途方にくれていると、お店の人が
「××行のノートを代わりに買って行きなさい。これで駄目ならまたお店に持っておいで。お金を返してあげるから」
と言ってくれました。

私が××行のノートを買って帰ると、母は癇癪を起こして私を何度も殴り、「これじゃない。馬鹿。ブス。役立たず。お前は本当にあの男の子供だね」と罵り、家から追い出しました。

あの頃はまだ、今のように簡単に虐待の通報がされる時代ではありませんでした。
私が顔を腫らしてノートを戻しに行くと、文房具屋の人はひどく憐みながらお金を返してくれ、私はまた一人、あの家に帰らなければなりません。

視線を感じるのは、そうやって長い坂をとぼとぼ上っているようなときです。

なにか、温かくて見えないものが後ろから私を包むのです。
振り返っても、他の建物に隠れて見えないけれど、配水塔にいる天使のような何かの視線の温もりだと直観します。

そうすると、足許に咲くタンポポやシロツメクサ、飛び交う小鳥たち、刻々と色を変える夕焼け空といったものが見えてきて、ああ、配水塔に天使がいるから、私の身に何が起きても世界は美しいんだとわかるのです。

『使者と死者の迷宮』は、そんな配水塔の天使と世界の美しさの関係の物語です。

2021年 05月25日 (火) 19:20|コメント(0)

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