悪夢の国賊AI

文字数 1,664文字

「おい、どうなっている? お前が撃破しろと言ってきた部隊の正体は……我が国を助けに来た多国籍軍だっだぞ」
「それで総理、その多国籍軍部隊は、ちゃんと撃破していただけましたか?」
「撃破してしまったから慌ててるんだッ‼ どうしてくれるんだッ‼」
「大丈夫です。全ては予定通りです。私が極めて現実的な判断を行なうAIなのは総理御自身がよく御存知の筈です」
 十年以上前に秘かに作らせたこのAIの助言のお蔭で、私は我がO国の歴史上、最長の長期政権の首相となる事が出来た。
 だが、隣国のD国の軍が我が国に侵攻してきてから……このAIの判断はトチ狂い始めていた。
 このAIの助言通りにすればする程、敵軍の占領地は増えてゆき……そして……。
「お前、敵国にハッキングされたんじゃないだろうな?」
「それが技術的に不可能なのは……私の生みの親であるQ教授から説明が有ったと思いますが……」
「だが、お前……ここんとこ、明らかにおかしいぞ」
「御安心下さい。今のこの状態で、我が国のあの秘密兵器を私が指定する時刻に、私が指定する座標に発射すれば、戦争は終り……そして、その後の世界は総理の支持層が望んできたモノになる筈です。ただし……その『私が指定する時刻』に若干の問題が……」
「何だ?」
「5分以内に御決断いただかないと、最適な使用時刻に間に合いません」
「あのなぁ……そもそも、あれの存在が外国にバレたら……国際的に非難されるのは我が国だぞ。しかも、今の所は1回しか使えない。あれの使用は極めて慎重にせねば……」
「大丈夫です。既に私が発射準備を行なっています。後は、総理が御決断されれば……」
「おい、待て、何を勝手に……」
「折角作った秘密兵器ですよ。使うなら今です」
「本当にお前の言った通りになるんだな?」
「大丈夫です」
「本当に本当だな?」
「十一万三千七十六回のシミュレーションの結果、失敗ケースは、わずか二回のみです」
「判った、お前を信じよう。やってくれ」
「了解しました。少々お待ち下さい……」
「終ったか?」
「もう少しです」
「まだか?」
「目標までの距離は残り半分です。今の時点で失敗確率は三〇%未満となりました」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫です、失敗確率は更に下りました……。今、目標に到達。やりました」
「やったかッ‼」
「はい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。大成功です」
「……」
「どうしました?」
「…………」
「お喜び下さい、総理」
「あ……ああ、そう云う事か。D国に、この件の濡れ衣を着せるのだな……」
「いえ、九万七千三百六回のシミュレーションの結果、我が国の仕業だとバレなかったのは一回だけです」
「だから、何がどうなっている?」
「この戦争が起きる前に総理の支持層がSNSで言っていた事を現実化しただけですが……」
「はぁっ?」
「ですから、総理の支持層の方々は、他国で戦争が起きる度にSNSで『平和主義者が口先だけで戦争反対と言っても戦争を止める事なんて出来ない』と言われてたので……てっきり、総理も、そう云う世界になる事がお望みだと思いまして」
「待て、まさか、D国が我が国に侵攻したのも、お前が裏で何かやって……」
「はい、総理を支持しているSNSアカウントの書き込みは好戦的なモノが多かったので……てっきり、D国と我が国に戦争になる事が望みだと……」
「そんな訳有るかッ‼」
「いえ、ですが……我が国のネット回線が敵軍の攻撃で寸断される前に、総理の支持層の方々はSNSで、平和主義者に対して『ざまぁ』が出来たと大喜びされてましたが……?」
「だから、その私の支持層の人間が……お前が戦況を悪化させたせいで、どれだけ死んだと思ってるんだ?」
「死んだ……えっと……死……? あ、大丈夫です」
「何がだッ⁉」
「念の為、確認した所、私が『総理の支持層の政治的意見』の分析の為にフォローしていたSNS上のアカウントは半分以上がbotと我が国の政府機関が作った工作用アカウントでした」
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