(2)
文字数 1,548文字
「こちらでございます」
博多の天神とやらの近くのタワーマンションとやらだった。
それもかなり上の階。
マンションの玄関まで行くと「メイド服」とやらを着た若い女が居て、今回の「客」が住んでいるこ と に な っ て い る 階まで案内された。
どうやら、1つの階を丸ごと借り切っていると云う設 定 らしい。
私は溜息を吐いて、案内の若い女に聞いた。
「誰を人質に取られている?」
「えっ?」
「何故、怯えている? 何故、この階には……お前と私以外、誰も居ない?」
舐められたものだ。私には、心を制御する術 を身に付けていない相手であれば簡単に感情を読み取れるし、気配を隠す結界でも張られているのでなければ、周囲の人間の存在を感知出来る。
「す……すいません……ッ‼ 彼氏が麻薬 で借金を……」
女は私の方を向く。女の服のボタンが飛び散り……。
「正 気 に 戻 れ 、馬 鹿 者 ッ‼」
我ながら、強引な手だ……。
この女は、何者かに呪術的な手段で心を操られている。
おそらく、この女とその「男」が借金絡みの面倒事に巻き込まれ……その心労などのせいで、この女の心に今風に言うなら「セキュリティ・ホール」が出来た……精神操作系の術か能力の使い手が付け入り易い精神状態になった……のだろう。
そして、言うまでもないが、誰 か を 正 気 に 戻 し た い 場 合 に 、そ の 相 手 に 「正 気 に 戻 れ 」な ど と 怒 鳴 る の は 底 が 抜 け た マ ヌ ケ だ け だ 。
完全に術を解くには時間をかけて慎重に行なう必要が有る。……それも、私と違って、そっち専門の術者が。
だが、時間が無い。女に向って放った怒号に「言霊」を乗せ……強引に術を「上書き」し、逆に私の支配下に置く。
「え……あっ……」
「どうせ死ぬなら……誰の指図か洗い浚い吐けッ‼」
「ぷ……ぷりんせすな……」
『マズいよ……。ちょっと』
この体の本来の主である千夏 が慌て始めた。
女の体に取り付けられている爆弾の起爆装置が起動。
爆発への秒読み が始まる。
なるほど。この女との会話は……全てを仕組んだ誰かに筒抜けだった訳か。
「いいか、落ち着け。助かる方法は有る。私を信じろ」
「は……はい」
「助かりたければ……窓から飛び降りろ。すぐにだッ‼ 恐れるなッ‼ 命を惜しめば、却って死ぬぞッ‼」
『えっ⁉』
「はいいいいいッ‼」
そう言って女は……。
『あ……あの……何……? どうなってんの?』
『誰かがかけた「精神操作」を無理矢理解いたので……あの女の心が壊れてしまったようだ。だから、あんな無茶な命令でも従ってしまった』
『それ、解いたって言わないッ‼』
女は慌てて駆け出し……そして……。
爆音……。
一時的なモノだろうが……爆音のせいで何も聞こえなくなる。
しゃがんで床に手を付く。
微かな振動が手から伝わる。
叫んだつもりだが……自分自身にも叫びは聞こえず……。
もちろん、巫女服の袖に隠し持っていた軽機関銃の発射音もだ。
敵ながら悪くない手だ。
今も昔も……魔法だの呪術だのは、生き物相手や霊体相手に特化したモノ。魔法だの呪術だので、生命も気や霊力も持たない単なる物体に対抗する手段は、案外、少ない。
科学技術とやらの産物は、魔法だの呪術だのに巧く対応出来ない場合も有るが、私達もまた、科学技術の産物にしてやられる事も少なくない。
しかし、この手は、過去に何度も他の奴らから使われた覚えが有る。
『やれやれ……』
周囲に転がっているのは……遠隔操作ロボットだったモノの残骸。
『不倫妹主儺威斗 の残党どもか……。まずは、この「仕事」を依頼した組織の親玉を締め上げて、洗い浚い吐かせるか……』
どうやら……私を恨んでいる、かつて潰した敵対組織の生き残りが、まだまだ居るらしい。
『あ〜っ、また、このパターン? お金入らないの?』
『吐かせるついでに、金も搾り取るか……』
博多の天神とやらの近くのタワーマンションとやらだった。
それもかなり上の階。
マンションの玄関まで行くと「メイド服」とやらを着た若い女が居て、今回の「客」が住んでいる
どうやら、1つの階を丸ごと借り切っていると云う
私は溜息を吐いて、案内の若い女に聞いた。
「誰を人質に取られている?」
「えっ?」
「何故、怯えている? 何故、この階には……お前と私以外、誰も居ない?」
舐められたものだ。私には、心を制御する
「す……すいません……ッ‼ 彼氏が
女は私の方を向く。女の服のボタンが飛び散り……。
「
我ながら、強引な手だ……。
この女は、何者かに呪術的な手段で心を操られている。
おそらく、この女とその「男」が借金絡みの面倒事に巻き込まれ……その心労などのせいで、この女の心に今風に言うなら「セキュリティ・ホール」が出来た……精神操作系の術か能力の使い手が付け入り易い精神状態になった……のだろう。
そして、言うまでもないが、
完全に術を解くには時間をかけて慎重に行なう必要が有る。……それも、私と違って、そっち専門の術者が。
だが、時間が無い。女に向って放った怒号に「言霊」を乗せ……強引に術を「上書き」し、逆に私の支配下に置く。
「え……あっ……」
「どうせ死ぬなら……誰の指図か洗い浚い吐けッ‼」
「ぷ……ぷりんせすな……」
『マズいよ……。ちょっと』
この体の本来の主である
女の体に取り付けられている爆弾の起爆装置が起動。
爆発への
なるほど。この女との会話は……全てを仕組んだ誰かに筒抜けだった訳か。
「いいか、落ち着け。助かる方法は有る。私を信じろ」
「は……はい」
「助かりたければ……窓から飛び降りろ。すぐにだッ‼ 恐れるなッ‼ 命を惜しめば、却って死ぬぞッ‼」
『えっ⁉』
「はいいいいいッ‼」
そう言って女は……。
『あ……あの……何……? どうなってんの?』
『誰かがかけた「精神操作」を無理矢理解いたので……あの女の心が壊れてしまったようだ。だから、あんな無茶な命令でも従ってしまった』
『それ、解いたって言わないッ‼』
女は慌てて駆け出し……そして……。
爆音……。
一時的なモノだろうが……爆音のせいで何も聞こえなくなる。
しゃがんで床に手を付く。
微かな振動が手から伝わる。
叫んだつもりだが……自分自身にも叫びは聞こえず……。
もちろん、巫女服の袖に隠し持っていた軽機関銃の発射音もだ。
敵ながら悪くない手だ。
今も昔も……魔法だの呪術だのは、生き物相手や霊体相手に特化したモノ。魔法だの呪術だので、生命も気や霊力も持たない単なる物体に対抗する手段は、案外、少ない。
科学技術とやらの産物は、魔法だの呪術だのに巧く対応出来ない場合も有るが、私達もまた、科学技術の産物にしてやられる事も少なくない。
しかし、この手は、過去に何度も他の奴らから使われた覚えが有る。
『やれやれ……』
周囲に転がっているのは……遠隔操作ロボットだったモノの残骸。
『
どうやら……私を恨んでいる、かつて潰した敵対組織の生き残りが、まだまだ居るらしい。
『あ〜っ、また、このパターン? お金入らないの?』
『吐かせるついでに、金も搾り取るか……』