文字数 1,165文字

 ものごとには、偶然をよそおったデキゴトがあって。何の気ない普段の行動から、その先がつながり広がることがある。

 特別配信の動画付きラジオで知った『選書』による読書体験。本が好きなパーソナリティへ、スタッフさんからの少し早い誕生日プレゼントだった。
 選んでくれる(かた)の手がかりは、こちらの名前だけ、という。それもいいな、と思って検索して、払ってもよいな、と納得してお願いした。数日後に届いたのは、アオくハルい年代の主人公たちを描いた一冊。
 パラパラと部分読みをしてみる。怖い話ではなさそうで、内心ホッとする。あとがきに替えて付された別作家からの解説を読んでみる。少しむずかしい。初めにもどって少し読み進める。文字のひらき具合に目が留まる。同じ使い方はしないが、少しわかる気がする。著者に興味がわく。これから、理解していく本なのだろう。偶然の出会い、それも良き、だ。

 シネコンで映画を見た。古い本が画面に出たので、内容をネットで検索する。しっくり来たのは、その著者のお孫さんが書いた記事。一回観てよく分からなかった、とある。映画の製作者も、よく分からないでしょう、と別方面に向けてコメントしていた。たしかに、簡単に分かるたぐいのものではなかったが、観たあとに考えを巡らせる、誰かと話をする、意見交換をする、にはいいかもしれない。それでもひとつの作品として仕上げられるという『ちから』の方に感銘する。

 どうやら、お孫さんも記事を書く記者らしい。本や作家の紹介がされている関連のサイト内で、そういえば、と先日届いた本の著者を探してみる。賞を受けている。新刊が出ている。新作も掲出されている。ご本人のSNSがある。サイン入り新書が並んでいるらしい。サイン会があったらしい。トークイベントがあるらしい。あれ、待って、この店の前を今日、入口だけ見上げて素通りした――。
店のリンクからチケットサイトへ。申し込み完了。予定がひとつ増えた。

 ラジオのパーソナリティは役者さんだ。トークに見え隠れする、視野と気配りのだだっ広さに、聞くたび感動すらおぼえる。先日ラジオで祝われたその方の誕生日は、トークイベントの一日前だ。覚えている。毎年思い出す。だって、きょうだいと同じだから。そんな勝手な親近感で、今までもこれからも活躍をゆるく見守っている。
 ついでを言えば、パーソナリティと本の著者の姓名の『名』も同じだ。読みも書きも。偶然、なのだろうが、選書を通して名がつながるのは、今ここだけなのだ。もちろん、ただの、デキゴト、に過ぎないけれど。

 廻り回って、素通りを続けていた店に赴く。ずっとそこにあるのに、なかなか気づかなかった入口をもつ店へ。それまでに、届いた本を読んでおく。点をつなぐ。それで終わりのデキゴトかもしれない。それならそれで、それも良き、だ。
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