第1話
文字数 1,572文字
僕の名前は金平糖。
妙な食い気を起こして、お菓子のトンネルに入った。
「こんにちはー。」
「ようこそ! いらっしゃい!」
「中は明るいから懐中電灯はいらないよー。」
「はい、ありがとうございますー。」
美味しそうなものがたくさん、宝石みたいにゴロゴロピカピカ転がっている。熱帯の海みたいにカラフルで、珊瑚礁的な美しさがキラキラしてる場所。うわあ、と僕はあっという間に舞い上がる。
砂粒みたいな砂糖がそこら中に撒かれている。ケーキにおまんじゅう、クッキーにお団子、夢のようなお菓子がたくさん。
僕は自分の好きなものを見つけては、ちょんちょんと突っついたりパクンと食べたりしてみた。
そうこうしているうちに、カタツムリがむっくりこっくり歩きながら、僕の方を見上げて声をかけてきた。
「こんばんは……金平糖くん……。」
「あれ、今ってもう夕方だっけ?」
「ん……確か、お月様が出ていたと……あれれ……? 今って……お昼?」
「あはは。トンネルの中だから、わかんないよね。」
でも、僕がトンネル入った時は昼だったから、多分今は昼だよー。
そう言うと、カタツムリはちょっとびっくりしたような顔をした。
そっか……昼なんだ……と言いながら、むっくりこっくり進んでいく。
「ねえ、カタツムリくん、どこ行くの?」
僕が聞くと、カタツムリは眠そうに答えた。
「ん……もう一個のトンネル……」
もう一個のトンネル?
僕は首を傾げてカタツムリの行先を見る。と、そこにはいくつかの小さなトンネルがあった。積み重ねたドーナツを横倒しにしたような格好で輪っかが一列に並べられているために、即席のトンネルが出来上がっているのだ。中にはレールが敷いてあるものまであって、そこではシュポシュポと煙を吐き出しながらミニ汽車が走っている。
「ええっ? トンネルの中なのに……トンネル?」
「便利でしょ……使わなくなったら、食べればいいんだから……」
「でも、ドーナツで、トンネル? なんかちょっとおかしくない? ……それに、食べればいいって簡単に言うけど、煙のすすがついてるの食べたらお腹壊すよ!」
「人間の胃腸は軟弱だよね……」
「そ、それはそうかもしれないけど。」
僕は「えぇ……」と言いながら、ひたすらのんびり進み続けるカタツムリを見ていた。
カタツムリは、「それじゃあね……ドーナツの中は、雨の日のトンネル、なんだよ……いいところだよ……」などと言いながら、ドーナツトンネルの中へ消えていった。
僕は、ちょっとだけぼんやりして、考え事に耽ってみた。
トンネルは、誰にも使われないほどに古びてしまった時、食べてしまうものなのだろうか。そうすれば、解決できるものなのだろうか。まあ、それができれば世の中色々とシンプルになる気はする。
様々に思い巡らしながら、トコトコ歩く。
そうこうしているうちに、僕はお菓子のトンネルから出てきてしまった。
出口は青くて、眩しく光っていた。
僕は解放感に溢れながら、静かに上を見上げる。空にはぽっかり、丸い穴があいている。白い太陽だ。
(んー。)
僕はたまに、考える。
あの白い太陽は、もしかしたら、トンネルの出口なのかもしれない。と。
『お菓子のトンネル』の中に、ドーナツで出来た『雨の日のトンネル』があるように。この世界にあるトンネルはマトリョーシカのような入れ子構造になっていて、何重にも重なっているのではないだろうか。と。
太陽の元まで飛んでいったら、そこは出口で、外から見たら僕らのいる世界なんて、案外ただのちっぽけなトンネルなんじゃなかろうか。
(まあ……そんなわけは、ないんだろうけど。)
でも、もしかしたら。
……なんてね。
僕の名前は金平糖。
明日もきっと、いつものように妙な食い気を起こして、お菓子のトンネルに入る。
そんな、どこにでもいるような、人間だ。
妙な食い気を起こして、お菓子のトンネルに入った。
「こんにちはー。」
「ようこそ! いらっしゃい!」
「中は明るいから懐中電灯はいらないよー。」
「はい、ありがとうございますー。」
美味しそうなものがたくさん、宝石みたいにゴロゴロピカピカ転がっている。熱帯の海みたいにカラフルで、珊瑚礁的な美しさがキラキラしてる場所。うわあ、と僕はあっという間に舞い上がる。
砂粒みたいな砂糖がそこら中に撒かれている。ケーキにおまんじゅう、クッキーにお団子、夢のようなお菓子がたくさん。
僕は自分の好きなものを見つけては、ちょんちょんと突っついたりパクンと食べたりしてみた。
そうこうしているうちに、カタツムリがむっくりこっくり歩きながら、僕の方を見上げて声をかけてきた。
「こんばんは……金平糖くん……。」
「あれ、今ってもう夕方だっけ?」
「ん……確か、お月様が出ていたと……あれれ……? 今って……お昼?」
「あはは。トンネルの中だから、わかんないよね。」
でも、僕がトンネル入った時は昼だったから、多分今は昼だよー。
そう言うと、カタツムリはちょっとびっくりしたような顔をした。
そっか……昼なんだ……と言いながら、むっくりこっくり進んでいく。
「ねえ、カタツムリくん、どこ行くの?」
僕が聞くと、カタツムリは眠そうに答えた。
「ん……もう一個のトンネル……」
もう一個のトンネル?
僕は首を傾げてカタツムリの行先を見る。と、そこにはいくつかの小さなトンネルがあった。積み重ねたドーナツを横倒しにしたような格好で輪っかが一列に並べられているために、即席のトンネルが出来上がっているのだ。中にはレールが敷いてあるものまであって、そこではシュポシュポと煙を吐き出しながらミニ汽車が走っている。
「ええっ? トンネルの中なのに……トンネル?」
「便利でしょ……使わなくなったら、食べればいいんだから……」
「でも、ドーナツで、トンネル? なんかちょっとおかしくない? ……それに、食べればいいって簡単に言うけど、煙のすすがついてるの食べたらお腹壊すよ!」
「人間の胃腸は軟弱だよね……」
「そ、それはそうかもしれないけど。」
僕は「えぇ……」と言いながら、ひたすらのんびり進み続けるカタツムリを見ていた。
カタツムリは、「それじゃあね……ドーナツの中は、雨の日のトンネル、なんだよ……いいところだよ……」などと言いながら、ドーナツトンネルの中へ消えていった。
僕は、ちょっとだけぼんやりして、考え事に耽ってみた。
トンネルは、誰にも使われないほどに古びてしまった時、食べてしまうものなのだろうか。そうすれば、解決できるものなのだろうか。まあ、それができれば世の中色々とシンプルになる気はする。
様々に思い巡らしながら、トコトコ歩く。
そうこうしているうちに、僕はお菓子のトンネルから出てきてしまった。
出口は青くて、眩しく光っていた。
僕は解放感に溢れながら、静かに上を見上げる。空にはぽっかり、丸い穴があいている。白い太陽だ。
(んー。)
僕はたまに、考える。
あの白い太陽は、もしかしたら、トンネルの出口なのかもしれない。と。
『お菓子のトンネル』の中に、ドーナツで出来た『雨の日のトンネル』があるように。この世界にあるトンネルはマトリョーシカのような入れ子構造になっていて、何重にも重なっているのではないだろうか。と。
太陽の元まで飛んでいったら、そこは出口で、外から見たら僕らのいる世界なんて、案外ただのちっぽけなトンネルなんじゃなかろうか。
(まあ……そんなわけは、ないんだろうけど。)
でも、もしかしたら。
……なんてね。
僕の名前は金平糖。
明日もきっと、いつものように妙な食い気を起こして、お菓子のトンネルに入る。
そんな、どこにでもいるような、人間だ。