残業英雄

文字数 838文字

私は英雄だ
どんな悪役も正義の名の下にぶちのめし、この世の平和を守ってきた
そしてもちろん特別な超能力を持っている
かなり大きなデメリット付きで使いづらいが、だからこそ絶大に強力無比
私の能力 それは“残業すればするほど強いペンギンを召喚できる能力”である

たとえば残業を1時間した場合
召喚したペンギンはムキムキになる
残業2時間ならば空を飛び 残業3時間で鋼鉄の体
このように残業時間に応じてどんどん強くなっていくのだ
ちなみに5日間寝ずに働いた時は念力を操るサイキックペンギンが爆誕した
ここまで強ければ正しく無敵
悪役が操る巨大ロボットを念力で一捻りにして瞬殺した時は我ながら引いた
単純に慈悲が無さ過ぎる 冷酷無情なサイボーグの如きペンギンだ

だがしかし
そんな都合よく悪役が暴れる訳もなく
さらに一度ペンギンを出せば残業カウントがリセットされてしまうため
私は延々と残業し続けている
最低でも鋼鉄のペンギンじゃないと勝てない相手なのにまだ残業1時間しかしてないよ!ムキムキペンギンじゃ無理だって!
昨日サイキックペンギンで倒したばかりでしょ!?流石にまだ残業溜まってないってば! いま召喚してもただのペンギンだよ!
そんなこんなでもうボロボロだ
悪役との戦闘はペンギンが全てやってくれるので全く疲れないが、それに備える毎日の日々が大変すぎる
ホントになんでこんなに使いづらい能力なんだ いったい誰を恨めばいい

久しぶりの休憩で、煙草を吸いながらエナドリを飲んでいれば電話が鳴った
会社と英雄 どちらの仕事の催促だろう
不謹慎ながら英雄であってくれと願ってしまう
あぁいっそ悪役に堕ちてしまおうか
サイキックペンギンで会社を破壊してしまおうか
そんな疲れた心を栄養に、私の能力はスクスクと育つ
電話に出れば英雄仕事 銀行強盗が発生し、警察の手に負えないらしい
こんな雑魚にペンギンを出すのは勿体ねぇなクソがよぉ 俺になんでも押し付けるんじゃねぇよ
愚痴をこぼしながら現場に向かう
俺の心は南極もかくや 恐ろしい程に冷え切っていた
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