(江戸時代篇)
文字数 438文字
まだ意識は有った。
隠居して息子に家督を譲って二年目の事だった。
「お……おい……な……なぜだ……? 何と云う真似を……」
「ち……父上……朋輩に……我が一家の正体が……露見……しました……」
「な……なんだと……」
「も……最早……
あの狂人どもの仲間にならずに逃げ出し……そして、この地で仕官して、かつてほど豊かではないが、平穏な暮しをおくってきた筈だった。
だが、世の中は理不尽だ。
いつしか、あの狂人どもは忠臣・烈士と讃えられるようになっていた。
それでも、正体さえ露見しなければ……そう思っていたのだが……。
「
その時、玄関から大音声が響いた。
「当家に仕官された際に、姓名を偽られた事に関して伺いたき儀がござる。城まで御同行願いたい。なお、これは上意にござる」