第1話

文字数 763文字

 初めてのデートは、友人カップルとのダブルデートだった。そのダブルデートで忘れられない思い出がある。こともあろうに私は玄関のつっかけのサンダルを履いて出て来てしまったのだ。あの頃は人間関係に悩み毎日が寝不足だったため、信じられないうっかりミスが多かった。あの朝も注意力に欠けていたのだろう。ぼんやりと歩き続け、待ち合わせ場所に到着する。異性と会う前に同性の友人と落ち合うことになっていた。友人は遅れて来た。その友人は私の足元を見て異常を指摘した。サンダルを履いていると言われても私は意味が分からなかった。自分の足先に視線を落として事態を把握する。私は慌てた。近くの店で靴を買い、それからダブルデートの本当の待ち合わせ場所に向かった。ダブルデートの相手は遅れて来た。特に反省の弁は無かった。そういう人間たちだと分かっていたので、さもありなんと私は思った。
 あれから何年の年月が流れただろう。私の友人はダブルデートの相手との交際で、心に深い傷を負わされた。そして私と疎遠になった。私の顔を見ると、嫌な思い出が蘇るのだろう。あの人にとって私は、忘れたい友達になってしまったのだ。
 しかし私にとって、大切な友人であることに変わりない。不治の病となり余命いくばくもない身と分かって、もう一度だけでも会いたいと強く願う。そして謝りたい。その交際相手の人間性に難があることを知っていながら、何の忠告もしなかったことを。言ったところで、むしろ反発されるだけだろうと思い、何もしなかった自分を恥じていることを伝えたい。次第に記憶が曖昧になりつつあるから、再会を急がねばならない。忘れられない友達を忘れ去ってしまう前に。そして再び会う時が来たら、尋ねよう。今は幸せですか、と。幸せだという答えを抱いて永遠の眠りに就きたいと、心の底から願っている。
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