第1話

文字数 310文字

 やけに旅が多い家庭だったけど、その旅が不穏な旅であることは、もちろん知っていた。引っ越しという名称をつけないのは、ただ単に住民証を移したり、転校したりといった一連の手続きを踏んでいないからであって、よくよく考えると、そもそも旅と呼んでよいのかわからない。とりあえず、住む場所がある時は安いアパートか社宅に転がりこみ、ない時は外でテントを張って過ごしていた。つらいと言えばつらいけど、そういう生活しか知らなかったので、平気と言えば平気だった。両親は、穏やかな人たちだったけど、たいして幸せそうではなかった。
 僕が8歳の時に、そういう生活が不適当だと判断され、両親と離れて暮らすようになった。それ以来両親には会っていない。
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