空き巣と掃除屋

文字数 1,185文字

「あ、お早うございます」
「あ……どうも……」
 俺は、同じ団地の下の階の部屋から出て来た奴に挨拶をした。
 「燃えるゴミ」の日の朝の7時ごろだ。
 俺も、そいつも、両手にゴミ袋を持っていた。
 ただし、そいつのゴミ袋は……俺のより1つ大きいサイズ。
 2DKだが、1人暮しのヤツが多い、この団地で家族2〜3人分ぐらいでもおかしくないゴミ。
 ひょっとしたら、何日も溜め込んだゴミを一度に出してるのかも知れない。
 地味な背広に地味なネクタイ。
 一見すると、真面目なサラリーマンっぽいが……。
 白いワイシャツの襟や袖口には垢汚れ。
 髭の剃り方も、ネクタイの結び方も雑。
 ズボラな奴なのか……何か心配事でも有るのか……仕事が残業続きか何かで、日常生活の細々した事まで気が回らないのか……。
 心なしか……顔にも疲れが滲み出ていた。
 そして……奴は……()()()()()()()()()()()()()()、階段を下りていった。

 冷静に考えれば、同じ団地内で「仕事」をするのは危険極まりない。
 けど……。
 時々、思う事が有る。
 俺が空き巣で生活費を稼いでるのは、他の仕事に向いてないからじゃなくて……単なるスリル中毒なんじゃないかって。
 普通の会社は休みの日の朝5時ごろ……早く目が覚めてしまって、近くのコンビニに朝飯を買いに行こうとした時……あの部屋から男が出て来た。
 私服だが……大きなスーツケースを持った後ろ姿。
 仕事で泊まり掛けの出張にでも行くんだろうか?
 ともかく、奴は、いつものように玄関に鍵をかけなかった。

 朝飯は後だ。
 俺は自分の部屋に戻り、仕事着に着替える。
 指紋を残さないように手袋。
 髪の毛を落とさないように……食品工場なんかで使われるビニールキャップを被る。
 そして……奴の部屋の玄関のドアを開け……ん?
 スーツケースを持っていたのに、何で、部屋の中に灯りが点きっぱなしだ?
 それに……何だ、この臭い?
 いや……待て……。
 ダイニングキッチンに入ると……おい……そう言う事かよ……。
 ヤツがいつも玄関に鍵をかけてなかったのは……同居人が居たから……でも何で……?
 その部屋には、4人の男の死体が……えっ……誰だ……俺の頭を掴んだのは……。
 あ……あがっ?
 喉元が……冷たいのに熱く……い……息が……ごぼごぼごぼ……。

「あのう、掃除屋ですけど、そっちの人が仕事を終えて出て行った後に、空き巣らしい奴が入ってまして……。はい、俺達の方で始末しときましたけど……こいつの『掃除代』も料金に上乗せしていいっすか? あ、やっぱり駄目っすか?」
 俺は、依頼主である殺し屋に電話した後、子分達がやってる「掃除」に加わった。
 死体の中に、TVのニュースで見た敵対組織との抗争中に行方が判らなくなったヤクザの組長らしい奴が居たが……俺達がアレコレ詮索する事じゃない。
 まぁ、7時前には「掃除」は終っているだろう。
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