第1話

文字数 1,592文字

おつきさまがだんだんまあるくなっていくとちゅう。
そのふくれたおなかから、ぽよんっ、となにかがもりへおちました。
くろいきのうろのなか。こけやはっぱをしきつめたねどこから、ひょこりとちゃいろいもわもわあたまがかおをだしました。
もわもわあたまはそとへでると、かべのようにおおきなくろいきをくもがはうようにするするとおり、おちてきたものをひろいました。
それはしかくくてぴかぴかにみがかれた、いしのようでした。
そのいしからはこえがきこえてきます。
「ハロー、ハロー、だれかそこにいる?」
(…え…?だれ…?)
もわもわあたまは、おっかなびっくりきいてみました。
「よかった!だれかひろってくれたのね。わたしはまちにすんでるの。あなたは?」
(…わたしは、もりに)
「もり?あなたはもりのこなのね。あたらしいおともだちだわ!」
はじめていわれました。なんだかどきどきしてきます。
「ああ、もうねむらないとおこられちゃう。またあしたおはなししましょう。じゃあね」
それきり、いしからこえはきこえなくなってしまいました。
またあした。もっとおもしろいはなしをしたいな。
もりのこはそわそわしながら、ねどこにもどりました。

つぎのよる。もりのこは、とっておきのおおきなキノコのはなしをしました。のっかると、びょいーんびょいーんとよくはずむのです。
でも、まちのこはつまらなそうでした。
「ふつうは、かみをよくとかしてリボンでむすんで、ふくもよごさないようにするのよ。そしてねるときは、あしたもいいこでいます、っておつきさまとやくそくしてからベッドにはいるの。だからおつきさまも、とおくのひととおしゃべりできるいしをくれたんだとおもうわ」
もりのこは、だれにもみえていないのに、もわもわをかくそうとりょうてであたまをおさえました。きにひっかけてボロボロのズボンが、なんだかはずかしくなりました。

つぎのひも、またつぎのひも、よるになると、ふたりははおはなしをしました。
そのたびに、まちのこはみたこともないきらきらしたものをおしえてくれるのです。
まちにたっているおおきなえんとつのこと。
ふなのりをしているパパのこと。
おたんじょうびかいで、ママがケーキをやいてくれたこと。
「あなたは、ハグしてくれるあったかいにおいのパパもママもいないの?…かわってるのね」
もりのこは、まちがどんなところなのか、きになってしかたなくなりました。

あるひ、ついにもりのこは、まちへいってみることにしました。
はなのくきでつくったすいとうと、くさをあんでつくったリュック。じゅんびはバッチリです。
つるつるすべるはっぱのうえをわたり、
みちをふさぐいわのようなカエルのしたをくぐりぬけ、
はちのむれからはしってにげて…
たいへんなおもいをして、やっと、もりをぬけました。

どれだけあるいたでしょう。
ちっともまちはみえてきません。
それどころか、じめんはだんだんまっしろなすなへかわっていきました。おひさまはじりじりとあつく、のどがかわきます。
ひとやすみしようとあたりをみると、うなだれるようにひしゃげた、てつのふといはしらが、ぽつんとたっていました。
はしらのかげにしゃがみこみんで、もりのこはひざをかかえました。
まちはどこだろう。
いっしょうけんめいさがしても、ほかにはなにもみえません。
もりのこは、うでをいっぱいにのばして、はしらにしがみついてみました。
「…にがいにおいがする……」
ぽろぽろと、なみだのつぶがこぼれおちました。

しばらくすると、かぜにのって、どこからかきいたことのないおとがしてきました。
もりのこは、ゆっくりと、そちらへあるきだしました。
さく、さく、とすなをふむおとにまざる、はじめてきくおと。

ざざーん ざざーん

めのまえいっぱいにひろがる、どこまでもどこまでもつづくけしきに、もりのこはめをぱちぱちさせました。
それはあおくて、ひろくて、とてもきらきらしていました。
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