文字数 707文字

「あー、もう! もっと早く描きたい!」
隣を歩いている幼馴染の少女が、携帯電話をいじりながらイライラした声を張り上げる。
メールでも書いているのだろう。携帯電話の画面に、必死にヒエログリフを描いている。

「なんで、こんな絵みたいな文字しかないんだろう! もっと簡単にならないのかな!」
変わらずイライラした声で何かわめきながら、幼馴染はヒエログリフを描き続けている。
ヒエログリフとは古代エジプトで使われていた、そして現代で使われている文字の事だ。

ヒエログリフは絵のような文字で、複雑な形のものも何個かあり描くのに時間がかかる。
古代エジプトまではいかない時代。数百年前はもっと簡単な文字が使われていたそうだ。
現在では手書きでしか入力できないが、昔はもっと簡単に入力する機械もあったらしい。

その機械を使えば、信じられない事に一文字を一秒もかからずに描く事ができたそうだ。
しかし、その入力の速さゆえ。思った事をすぐに描き、すぐに発言する事ができた結果。
言葉による誤解や衝突がきっかけで始まった戦争で。世界は一度、滅亡しかけたらしい。

「あー、もう! 返信パス! 面倒くせーから、もう描かん!」
そのため、この幼馴染のように感情のまま言葉を描き、そのまま発言する事のないよう。
世界は、描くのに時間のかかるヒエログリフという古代の文字を見直すに至ったらしい。

仮に感情的になっても描くのに時間がかかるため、描いているうちに冷静になっていく。
ヒエログリフを世界共通の、そして唯一の文字とする事で世界の争いは激減したそうだ。
「イライラすんなよとか、うるせーよ!」

幼馴染が怒った。口の軽い僕には全ての状況でヒエログリフが必要だな、と再認識する。
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