賢い男と悪魔

文字数 802文字

昔あるところに、男がいた。

男がある日、罠にかかって苦しんでいた山羊を助けると、山羊は男の目の前で悪魔に姿を変えた。


悪魔は男に感謝し、

お前の望みを、何でも一つだけ叶えてやろう

と言った。


男は考えた。狡猾な悪魔のことだ、願いを叶えたと見せかけて、結局は俺を不幸にしてやろうと企んでいるに違いない。

騙されるものか。


男はよくよく考えた末、慎重に言葉を選びながら、こう言った。

俺を若く逞しく、賢くて誰からも愛され、美しく優しい妻と可愛い子供たちに恵まれ、健康で長生きをし、死後は天国へと召される、そんな大金持ちにしてくれ!
悪魔は笑った。
それがお前の望みか?
ああそうだ、条件は一つたりとも、欠けてはいけないぞ!
造作もないことだ。その願いを叶えてやろう

悪魔が呪文を唱えると、男は眠るように倒れ込んだ。




   ***




再び意識を取り戻した男は、一羽の大きなオウムになっていた。

泉に映った自分の姿を見て、男は激昂した。

これはどういうことだ! 約束と違うじゃないか!
悪魔は首を横に振った。

いいや、違わない。もうすぐ国王の家来たちがここにやってくる。彼らは年老いて外出もままならなくなった王の心を慰めるため、珍しい生き物を探している。

そしてお前を捕らえ、王に献上するだろう

男はあんぐりと口を開けて、悪魔の言葉を聞いた。

お前は王から家族同然の寵愛を受け、王の死後は、遺言により莫大な遺産の一部を受け継ぐことになる。

お前の美しい羽と声は、たくさんの者に愛され、立派なメスのオウムに、多くの雛鳥を産ませることができる

違う、違う! こんなものは俺の望んだ姿じゃない!
そうか? お前は人間の男のままで、とは、一言も言わなかったではないか
男はそれを聞いて、がっくりと肩を落とした。
一部のオウムは70年以上も生きるという。

死後も天国でさえずり続けられるよう、天使と交渉してやったから、安心して長生きするがいい!

高笑いを残して、悪魔は消えていった。
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登場人物紹介

男。千載一遇のチャンスを目の前に、悪魔を相手に知恵をめぐらせる。

悪魔。親切に見えても狡猾な生き物。

決して心を許してはならない。

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