第1話

文字数 638文字

先月の忙しさに比べ3月は、男性のお客様と
会話があり愉快である。
 女性と違い、良く悩み苦虫噛み潰したよう
な顔をされながら舌打ちされる方が結構多い。
 先日もチョコレートケースの前で、じっと
商品を見ている初老の男性が「もう、これで
いいや」とお勧め商品を指さしたので「あり
がとうございます。ホワイトデー用ですか?」
と訪ねると、口を半開きで頷きながら「まっ
たくねえ困っちゃうんだよね、こういうのも
らうとさぁ」と商品を指さし、しゃべりだし
た。
 私は一瞬固まってしまい、苦笑いで「あり
がとうございます」と早急にお渡しした。
 本音は分かるが売場で愚痴をこぼされても
と思いつつ、少し不愉快な気分であった。
 一方、楽しそうに買われる男性はそれだけ
で素直そうに見えてくるから不思議だった。
 しばらくすると、カジュアルな服装の30代
位の男性がケースを覗いていた。
 長くて嫌な予感だったが、営業スマイルで
アプローチすると、その方は急に顔に力を入
れて「これと、これと、これと、これっ」と
本当に考えたのかと思う程の早さで商品を指
さした。
 私が急いで商品を包装し始めると、「もう
こういうのやめてほしいよね」と投げ掛けた。
 私は再び固まってしまい、そういう事は本
人に直接言っていただきたいと喉まででかか
ったが、ぐっとこらえ笑顔で商品をお渡しし
た。
 この仕事を通して、バレンタインデーの義
理チョコに悩む男性が多いという事を、女性
も頭の片隅に置いてもらいたいものだ。
 女の私も同様に思っているからである。
〈完結〉


 
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