第15話  さびしかったから。

文字数 1,323文字




   さびしかったから。



 さびしかったから、

 さびしかったから。


 猫を飼おうと思っても

 自分の猫、を、選ぶ方法すらわからなかった。

 どの猫も、みんな可愛い。

 めうつりするけど、どれも飼えない。


 さびしかったから、

 飼おうと思った猫とは縁がないことばかりで

 さびしかったから、

 もう飼うまい。

 そう思っていた鼻先に、おまえが押し掛けてきた。



 さびしかったから。

 

 座り込みをし、

 シュプレヒコールをし、

 借家の雨戸をひっかき、

 玄関をひんむいた。

 私のもとに居座るために、おまえが働いた乱暴狼藉の数々。

 (--#)

 だれを選んだらよいのかすらわからぬ愛情欠乏の私に、

 おまえは、自分で私を選んで、小さな足でとことこ走って、

 しつこくわめいて、

 愛情を要求してくれた。



 さびしかったから。


 私のように孤独に慣れすぎたものには、

 おまえほど、しつこくずうずうしく叫んでくれる存在が、

 けっきょく一番ちょうど良く必要だった。



 さびしかったから。



 おまえにかけられる迷惑も心労の数々も、

 放射能のなか、置いて逃げる、ということは

 考えてもとても実行できぬほどに

 私は

 おまえに依存していた。


 おまえのほかには誰もいない。

 これほど私に「ちょうどよい猫」は

 いまもむかしもぜったいに他にはいない。


 さびしかったから。

 さびしかったから。



 おまえは神様がくれた猫。

 ほんとうの猫。

 世界でただ一匹だけの特別な猫。

 神様がくれた猫。

 …………



 さびしかったから。

 さびしかったから。



 私はおまえが要求する愛情を

 十分には与えてやれていなかったと思う。


 さびしかったから。

 さびしかったから。


 いつでもお留守番ばかりで、

 エサも手抜きで

 やつあたりするし、

 うるさく愛情をねだられると、

 ポイポイ放り出したりするし……



 さびしかったから。

 さびしかったから…。




 
 いつのまにかおまえがいなくても何とか生きていられる私。

 もうどんなに哀しくても決して鬱病と自殺願望の陥穽には後戻りできない私。


 今なら「自分の誰か」を選ぶ方法なら、ちゃんと分かっている。

 自分のベストを尽くして生きて、その自分を選んでくれる相手。

 それが、人生の伴奏者になるのだ。



 さびしかったから。

 さびしかったから…








 今、

 もはや必要品ではなく、

 依存もしていない。






 おまえがいなくなってしまって、


 ほんとうに、















 私は、

 寂しい…







===============


https://novel.daysneo.com/works/episode/0f646e1629475d8740e2ffa70ba47234.html
(第122話)より再掲


これをもって、めいにゃん様の9回忌(?)
(正確に言うと、『めいの命日』は、2012年4月2日なのですが。
 なりゆきで『お彼岸の墓参り』は、
『川下公園のライラック祭り詣で』に化けてるし。
 ま、いっか…☆

 個人的に、
『3月16日』は亡実父の命日で、
『3月21日』は『木村英子さんの亡き盟友Tさん』の命日なので…
 気分的に、春先(というか年度末?)は、
 これ以上、『ご不幸ごと』イベントを、
 増やせないのでした…)




 一旦終。 (2021年02月27日、21:31。)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み