文字数 1,211文字

何十回も会っていくうちに彼女は色んなことを教えてくれた。昔、家では家族が仲良かったこと。中学生、高校生になるにつれて家族関係が悪くなっていったこと。今となっては全く喋らず、ご飯も別々らしい。

「今は琉騎亜が愛してくれるから幸せだよ。」

彼女は琉騎亜と会っている時はそれを何度も口にしていた。まるで自分自身を洗脳するかのように、自分に言い聞かせるように。
昔、琉騎亜は同じような家庭環境だった。怒鳴る母、床に落とされた消費期限切れのご飯...。そのせいもあってか、彼女にどんどん依存していくのがわかった。
琉騎亜は彼女が他の男に取られないように、殆どの時間と金は全て彼女にやっていった。
仕事だって、最近はバンバン入ってくる。前に書いた歌詞がショート動画アプリでバズったお陰で、次々に仕事依頼が来ているのだ。
要望も多いし大変なことが増えたが、彼女と居る間、彼女の事を考えている間は言い切れない程の幸せを感じていた。

ふと、琉騎亜は前に思っていた願望を思い出した。

"彼女を自分だけのものにできたなら。
俺だけ見て、俺だけを愛してくれたなら。
「......できるじゃん。」
琉騎亜はパソコンを見ると小さく呟いた"

今なら金もある。多大な金が。

琉騎亜はドタドタとパソコンのあるテーブルに向かうと、彼女を誘拐する計画を立てはじめた。

......

「...え?今日はお兄さんのお家でするの?」

「ご、ごめんね...でも、ほら、オプションは沢山払うから...!」

琉騎亜は分厚い封筒を彼女に手渡しした。彼女はそれを受け取り、中を覗くと目を大きく見開いた。
中にはオプション代なんてもんじゃない、それの何倍ものお金が入っていたのだ。
これなら行ってもいいだろうと判断したのか、彼女は琉騎亜の手を握り「いいよっ!」と明るく微笑んでみせた。
琉騎亜は彼女の後ろを歩き、自分の車の後方のドアを開けて中に彼女を乗せた。車は適当に買った中古の車。中もそんなに広いと言うほどでもない。ナンバーを隠し、車のエンジンをかけて発進させる。ガタン、ガタンと、車特有の揺れに彼女は眠そうに頭をこくりこくりと揺らしていた。

「あ...眠かったら寝ていてもいいよ。少し時間がかかるから...」

琉騎亜は運転をしながら優しい声で彼女に声掛けをする。ちらりとバックミラー越しに彼女を見ると、彼女は既に眠っていたらしい。すぅすぅと可愛らしい寝息を立てている。
ビルが建ち並ぶ道を通り抜け、車を走らせていくと段々緑が増え始めてくる。琉騎亜は遠くに一軒家を買った。周りは木に囲まれていて、窓から見た景色は綺麗...いや、綺麗とは言いづらいものだったかもしれない。見渡す限り緑で、木が一軒家を囲むような場所だったからだ。
あの場所が彼女と俺の家になる。そう考えるとニヤニヤが止まらなかったし、彼女がこの家に来たら何をしよう。と妄想が止まらなかった。
そんな考えを浮かばせているうちに、琉騎亜たちは例の一軒家に着いた。
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