呂布奉先、異世界転生する セルフノベライズ

文字数 1,722文字

「この大耳野郎を信じるな、曹操!」

「この男は危険だ、曹操殿!」


かつてこの城の持ち主だった劉備と、それを不在のうちに奪った呂布。

彼らは共に言い合いをしながら、曹操に己の考えを訴えていた。


「――呂布の首を、はねよ」


 両者の言い分を慎重に聞いたうえで曹操が下した判断。


「!? 曹操、キサマ!?」


 それは、劉備の言い分を信じるというものであった。


「なぜだ曹操、キサマ! さっきまでは俺を買おうとしていたのに、なぜこの大耳野郎を信じる!?」

「劉備の方がお前より潔く誠実だからだ」

「!?」


 この男、呂布はこれまで無数の裏切りを重ねてきた。

 ゆえに劉備ははじめからこの男を信じていなかった。

 呂布の言う通り、はじめは曹操も呂布の提案を買おうとしていたところだったが、劉備の証言とこれまでの呂布の言動を重ね合わせて慎重に評価した結果、彼は信じるべきは劉備と判断。

――よって、この男呂布に裁きの刃が下ることになるのである。この男は最期の時まで不平を訴えながら死んだ――はずだった。



「ここは――どこだ?」


 かつて己が戦っていた地である中華は、荒れた土地の多い国だった。だが今呂布がいる場所は、草木の生い茂る森の中であった。

 武器である方天戟も、その場に転がっていた。そして弓も。


「俺はあいつらに縛り首にされて死んだはず……」


 そう、この男は死んだはずなのだが――知らないうちに見たこともない異界の地にて目を覚ましたのだ。


「助けてー!!」


 そんな中で、彼の耳に女の大声が響き渡る。


「? 女の声だ!」


 呂布は武器を手に取るやいなや、即座に現場へと向かった。





「女、何事だ!?」


 巨大な方天戟を手に持って、そこへ突入した呂布。そこにいた女はかつて恋した女である「貂蝉」にどこか似ていた。

――だが今は、そんなことに気を取られている時間はなかった。


「なんだ、この醜い豚共は!?」


 彼女は、呂布の言う醜い豚のような顔をした小人に囲まれていた。呂布はこの小人たちを、即座に敵とみなした。


「この俺が、退治してくれるわ””」


 方天戟を高く掲げ、この男は豚達に襲い掛かった。


「!?」


 豚の数匹が後方確認をした。彼らが見たのは、恐ろしい形相をした巨漢であった。


「失せろ、虫けらども!!」


 先端にいた一匹の哀れな豚は、この大男の掲げた方天戟の刃を頭から受けた。

 無論、結果は一撃のもとでの絶命。激しくあふれ出た血が、仲間達に恐怖を抱かせた。


「ッフン!!」


 抵抗の意思も確認しないまま、呂布は豪快に方天戟を振り回す。

 長柄と長弓の扱いで鍛えられた剛腕は、彼の目の前にいる醜い豚達を一気に吹き飛ばした。


「ヒッヒイイイイ!!」


 豚達はおびえていた、そして助けを求めた女も、その強さにおびえていた。


「ザコが、これで終わりか!?」


 方天戟についた血を振り払いながらも、呂布は生き残りに迫る。


「ヒィイイイ!!(なんでエルフの里にこんなに強いニンゲンがいるんだ!!)」


 一斉に逃げていく豚達。


「逃がさん!!」


 だが呂布は無慈悲にも、彼らを逃がすことはしなかった。

 方天戟を一度投げ捨て、彼はもう一つの自慢の武器である長弓を構えた。


「消し飛べぇ!!」


 一条一条の疾き矢が、確実に生き残りをとらえた。




「フン、尻尾を巻いて逃げおったか。虫けらどもめ」


 初めて見た、得体の知れない豚のような顔をした小人達。

 実は彼らは群体になれば人間をも屠る邪悪な魔物なのであるのだが、欲望に忠実ながらも武術においてはストイックに己を鍛え続けた呂布の敵ではなかった。


「……立てるか?」


 そんな中、呂布は彼らに囲まれていた女のもとへ。


「…………」


 はじめはおびえていた女だが、ようやく彼が敵ではないことを理解したのか、大人しく彼の手を取った。


「……人間で、あなたのような弓使いがいるとは、存じませんでした。ありがとうございます」

「?」


 呂布はのちに知ることだが、この女はエルフ族という魔法と弓の扱いに優れる民族であった。

 エルフ族ですら扱うのは容易ではない長弓でたやすく逃げまどう豚共を討ちぬいた腕をみて、彼女は呂布を信頼することにしたのだ。



 こうして呂布はエルフの里を救い、第二の人生を始めました。

to be continued
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