文字数 716文字

24時50分。人間が熟睡し始めた頃、悪夢の精である僕は目を覚ます。といっても本当はボスに「おい!今日はお前が行くんだぞ!」って叩き起こされたんだけどね。悪夢の精は人間に悪夢を見させるのがお仕事。なんだそれだけかって?でも誰に見させるか、いつ見させるか、どのくらい見させるかって奥が深いんだよ。ボスは悪夢の案内人になって30年くらいで他の人とは桁違いなくらいのすごい数の人間にすごい怖い悪夢を見させたらしい。いわゆるレジェンドっていうやつだよな。

今日は誰に悪夢を見させよう。まだ半人前だから簡単な悪夢の方がいいよな。そんなことを考えながら事前に見習い仲間の誰かが集めてくれた候補者の中から一人のデータを見てみる。すると最近彼女が出来たとか飼っている犬をこよなく愛しているとかどうでもいいことが書かれていた。「このデータ集めたの誰だよ。なんの役にも立たないじゃないか」とつい口に出た。まぁでも同い年くらいなのに彼女がいるのはちょっとムカつくし、こいつに決めた。

枕元に到着すると、そいつはスースー寝息を立てて熟睡してやがった。チャンスとか僕が思ってるとそいつが「むにゃむにゃ、、ポチと美香どっちも大好きなんだから選べないよぉ」なんて寝言を言い始めた。「そういえば彼女が最近出来て犬が好きなんだっけ、まぁ僕には関係ないし仕事するか」と思ってそいつの顔を見た瞬間、僕の頬が緩んだ。そいつがこれ以上ないってくらい幸せそうな顔をしていたからだ。

「やーめた。ボスに『だからお前は半人前なんだ』って怒られそうだけどこいつに悪夢を見させんのは可哀想だ」

そうこうしているうちに夜が明けそうだ。結局誰にも悪夢を見させられなかった僕だけど、なんか幸せだった。
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