本は語る 王子様って?

文字数 1,358文字

 ここは田舎の小さな私立図書館じゃ。

 館長はわし、カナンと申すもの。

 ここはわし一人で図書館をきりもりしていてのう。

 ひっそりと静かな図書館には、田舎という事もあってあまり人もこないんじゃ。

 そういう時に、聞こえるんじゃな、本たちの声が。

 話をするのじゃ、ここの図書館の本たちは。

 わしが好きなのは恋愛小説ちゃんじゃな。

 恋愛小説ちゃんは可愛らしいからのう。孫をみているようじゃわい。

 恋愛小説ちゃんは童話ちゃんと仲がいいんじゃ。

 今日もなにやらお話を始めたらしいよの。



「ねえ、恋愛小説ちゃん。王子様についてどう思う?」

「は?」

 童話ちゃんの質問に恋愛小説ちゃんが顔をむけた。



「素敵よね、頭がよくて、かっこよくて」

「そうねえ、公爵様なんかもいいわね、恋愛小説の中ではいい感じの相手よ。でも童話ちゃんの王子様と私の中の王子様とは違う気がするわ」

「どうちがうの?」

「童話ちゃんの王子様は、なんていうか、完全無敵って感じで完璧なのよね。でも少しユーモアがあった方が、魅力があって恋愛には向いてるわ。俗に言うギャップ萌えってやつよ」

 得意げにそう言う恋愛小説ちゃんに端で聞いていたノンフィクション君が口を挟んだわい。

「王子様? 何を言っているのだ、君たちは。確かに王子様はいる。しかし現実に生きている『人間』だぞ。いろいろスキャンダルを抱えていたり、問題も多いぜ」

 恋愛小説ちゃんはそれを聞いて色めき立ったよの。

「スキャンダル!? それってやっぱり身分違いの恋かしら」

「……わからんが、スキャンダルなんだからあんまり良くない事だろうよ」

 ノンフィクション君は半分呆れて恋愛小説ちゃんに溜息をついた。

 そこへ百科事典様が口を出しおった。

「乙女の夢をあまり壊すでないよ」

「そうじゃ、そうじゃ。恋愛小説ちゃんがかわいそうだろう」

 辞書様も同意しおった。

 しかし、新聞氏がその二冊をいさめよる。

「はじめから現実を見ていないと、将来立派な大人になれませんよ」

「いいのよ! 恋愛小説は全女性のあこがれがつまってるんだから!」

 恋愛小説ちゃんが息まいて新聞氏の言葉に反論しておる。

「童話ちゃんも全お子様の夢を背負っているの! だから王子様に夢を持っているのよ」

 さりげなく童話ちゃんのこともかばっておる。優しい子じゃ。

「王子様論ですか……。それが銃や剣を取ったら面白いけどね」

 ミステリーサスペンスさんがそっけなく言ったよの。

「いやむしろその王子が悪魔のような怖い人格で、恐ろしい所業を数々と積み重ね……」

 ホラーさんも一緒になって言ったよの。

「だめだめ~~! もう、理想が台無しだわ。そうだ、詩集ちゃんはどう思う」

 ぽうっとしている詩集ちゃんに恋愛小説ちゃんが声をかけた。

「私はむしろ薄幸の王子が好みね」

「……さち薄い方がいいの?」

「その方がポエムになるわ」

 ライトノベル君も言いだしよる。

「王子は強く清くたくましく、これがいいね。そして世界統一して王になる」

 ライトノベル君は熱く語りおった。



 そうこう話しているうちに日は暮れ、わしは図書館の火を落とす。

 明日はどんな話が聞けるだろうかな。

 しかし童話ちゃんは、かわいい事を思いつくよのう。

 王子様論……もうちょっと聞いていたかったが、わしも歳で明日がつらいでな。

 帰るとするかのう。
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