第1話

文字数 1,867文字

「優しさ」って何だろう。
数年前から、わたしはこのことを考えていた。

「好きな人のタイプは?」と聞かれ、「優しい人!」と答える人は多いだろう。
「彼氏はどんな人?」と聞かれ、「優しい人かなぁ」と答えていても、結局別れるときには優しさって何だっけ……という状況になることが多かった。

皆さんには、そういう覚えは無いだろうか?
無いならそれに越したことはないだろうが、わたしが10年間考えていたことを書いていく。


大学1回生の夏、親友がわたしにこう告げた。
「見る目を養え、冷静になれ、がっつきすぎるな、優しさの意味を考えろ」

当時、わたしは短期間で付き合っては別れてを繰り返していた。人と付き合うことで長続きができなかった。
それをすぐそばで見ていた親友は、心配になってこの4か条をわたしに突き付けてきた。

恋愛で失敗するたび、彼氏と別れるたびに、この4か条を思い出していた。

この4か条の中でも、「優しさの意味を考えろ」のところが特に難しい。
見せかけの優しさがわかりやすく、信じやすい。実際、何度も同じことをした。
その経験があってこそ、いまの自分があるのだろうとは思うのだが。


なぜ今回、そんなことを書こうと思ったかといえば、同じく大学時代に1年半ほど付き合った人の存在が大きい。
別れたあとはいまも、たまに連絡を取り続けている男友達だ。

世間的に見れば、別れたあとに連絡を取り続けるなんて……と思われそうだ。
しかし知り合ってからもう10年近く経っており、ある程度わたしのことは知っている。
元カレという未練がある関係というより、頼れる兄貴みたいなものだ。(同級生だけど)

その男友達と最後に会ったのは、もう5年前になる。
そのあとはSNSで薄く繋がっていただけなのだが、コロナ禍でうつ病になった頃に偶然、TwitterのDMで繋がった。

そこからはうつ病がひどい時期に話を聞いてくれたり、Zoomで好きなアーティストのライブDVDを一緒に鑑賞したりした。
間違いなく、うつ病を乗り越えるのに彼の力は必要だった。


4ヶ月の休職から明けて復職。
仕事の悩みも、その男友達によく相談した。

彼は、わたしの相談のときだけ返してくれる。
「基本はいつも、無関心だよ」と言いつつ、わたしには甘い。しっかり向き合ってくれる。
しかし言葉は甘くないし、甘やかすことはほとんどない。

少し前に、「怒るときにはどうしたらいいのか」という相談をした。
わたしは、怒ることが苦手だ。
普段は平和主義で、なるべく穏やかに生きている。
そのため、仕事で怒る術をほとんど知らない。
別れ話で悔しいことがあっても、結局怒れずに、感情があふれて泣いてしまうことがほとんどだった。
そのあとは逆に怒られる場合はどうすればいいのか、という相談もした。

これらは今年1年かけてじっくり考えていく課題だが、それでも考え方から彼の本質が少し掴めたように思う。
そして付き合っていた頃よりもむしろ、心の中で近づけた気もする。

そのとき、こうやって遠くから見守ってくれることがすでに優しさであり、極論を言えば愛なのかもしれないとすら思ったのだ。


わたしの好きな小説に、千早 茜さんの『男ともだち』という作品がある。
主人公の神名はイラストレーター。同棲中の彼氏がいて、不倫もしている。
そんな中、大学時代の先輩・ハセオと再会するのだ。
ハセオとの再会で、神名の生活に変化がもたらされる……という物語である。

イラストレーターの仕事をしている中で、自分が描きたいものが何かわからなくなっていた神名。
深い迷いに入った神名だったが、ハセオと接する中で一筋の光を見出す。

どうしてもこのような作品だと、男女の関係になって友情がもつれる……と思いがちだったのだが、それが無いのが個人的にはとても好みだ。
男女の友情なんてありえない! という方にこそ、ぜひ読んでほしい小説である。

この『男ともだち』の中で終盤、神名がハセオにこう聞く。
「ねぇ、ハセオにとっての愛情ってなに?」
「そうやな、見ててやることかな」

先日久しぶりに読み返していて、まさにこれだ……! と感じたのだ。


見ててやること。見守ること。
それは相手にすることを放棄しているのではなく、優しさの形なのだろう。

男友達を通じて、優しさの意味を考えることができたのだ。
結局、冒頭の4か条のときから10年かかってしまったが、なんとかしっくりする答えを見つけたのだ。自分を褒めたい。


恋愛に悩んでいる人がいらっしゃれば、ぜひわたしの親友からの4か条について考えてみてほしい。

あなたにとっての、優しさの意味はどんなものだろうか?
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