臆病者の私

文字数 891文字

春は光と愛に溢れた季節だ
新しい何かに期待したり 新しい自分になれる予感がしたりする
だから春になる少し前から浮き足立っているし
色のない冬を超え 鮮やかな春を心待ちにしている

その期待や予感が確かなものになるかわからないけれど
寒さが厳しければ厳しい程に温かさを求めてしまう
残酷な未来より心地良い未来の中にいますようにと願う

私もそのひとりなのは間違いない
期待している 自分以外の何かに
求めてしまう 自分以外の何かに
ここではないどこか遠くに連れて行ってと

私は臆病者だ
だって自分で進まないから
進んだ先の結果に責任を持ちたくない
進みたいと願うくせにその先には正解しか求めてない
だから間違った時の保険が欲しいのだ
こんな私に手を差し伸べる人なんていないだろう

わかってるこのままじゃいけない
それは私がよくわかってるでも怖いのだ
間違いたくないし失いたくない
何より傷つきたくない
痛みには慣れても やっぱり痛いから

そもそも私は最初から正解だったことなんてあるのだろうか
私が手にしているものなんてあるのだろうか
生まれたことが間違いだったかもしれない
生まれてから今までこの手には何もなかったかもしれない

そんな私の憂いを笑い飛ばすみたいな強い風が吹いた
この風に何もかも吹き飛ばして欲しいと思う
憂いも期待も予感も私自身でさえも

いつだったか こんなおまじないを聞いたことがある
風に願いを託すとその願いが叶うというおまじない
臆病者で自分勝手な私の願いも このおまじないは叶えてくれるだろうか
子供みたいな自分が情けなくて俯いた そんな私の目の前には汚れた靴があった
いつの間に私の靴はこんなに汚れていたんだろう
綺麗な靴は幸せな場所に連れて行ってくれるらしい
それならこの靴を綺麗にしたら私は幸せな場所に行けるだろうか
綺麗に磨いたらそんな場所に私も行けるだろうか
まだこの靴は間に合うだろうか

間違いだったかもしれない
この手には何もないかもしれない
こんな私には願う資格も期待する意味もないのかもしれない

それでもどうしようもないほどに願ってしまう
私の未来が光と愛に溢れますように
悔しいくらい期待してしまう
私も幸せな場所に行けますように
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