通りすがりの小話
文字数 2,479文字
あ、どうも、わたくし、ちょっと変わったアルバイトをした事がある通りすがりの者でございます。
せっかくなので、ちょっとお話読んで頂けませんでしょうか。
さてさて、わたくしが経験したアルバイトというのがですね、確定申告会場の入力補助でございます。
平たく言って、確定申告をする、主にお年寄りやお身体の不自由な方に代わって、各種の入力事項をパソコンに打ち込むお仕事です。
その他にも、お持ちになった各種証明書の原本や複製を指定の台紙に貼りつけたり、不備がある場合は必要な書類をご案内して一旦お引き取り願うなど、会場内の諸業務のお手伝いをするお仕事でした。
これでも雇用期間中は国家公務員と同じ立場をお借りしておりましたし、どなたが来られたなどという事は雇用期間満了後も守秘義務がございますので、そこら辺の事はお話出来ません。
しかしながら、会場内をざっと見ておりますと、まぁ幾つかの傾向がございましたので、少々お話させて頂きたく思います。
まず、わたくしが居りましたのは、随分と田舎の会場でしたので、ご高齢の方が大変多ございました。
一方、雨後の筍よろしく、お年寄りが手放した田んぼの跡地に新築住宅が次々完成しておりますので、マイホームを実現された若い方もちらほらと居られました。
さて、多くがご高齢の方でございますが、やはり歳をとると医療費がかさむ物でございます。必要な分だけでも、医療費控除の対象になる目安、十万円を超えるのは珍しくありませんし、ご夫婦ともなればなおの事。
返ってくるなら、ちょっと頑張って確定申告してみよう、と、来場される分にはまだまだお元気に見えますが、ここでひとつ問題が。
皆さん、理解しておられないのですよ、仕組みを……。
いえいえ、悪いのは周知していないお上の方でございます。
わたくしとて働いて初めて理解した事がごまんとございますし、働いていてもなお理解しきれないままの部分も大変に多くございました。
とにかく、あまりに頭のいい人達が考えてくれたおかげで、一般庶民には理解しがたいのが税制。しかしながら、あまりにも不備だらけで来場されてしまいますと、お引き取り願わねばなりません。これはなかなかに心苦しくございます。
ですから、是非ともこれをお読みになった皆さんに、離れて暮らす親御様が居られましたなら、ちょっとした親孝行をして頂ければ幸いに思うのでございます。
まず、確定申告にはどんなものであれ“源泉徴収票”をお持ちになって頂きたいのでございます。
複数個所にお勤めの方は全てのお勤め先の物、年金をお受け取りの方で、厚生年金や企業年金など複数個所からお受け取りの場合、その全ての物をお持ち頂かねばなりません。
次に、よくある医療費控除に必要なのは、病院から発行された領収書の類でございます。
医療費の一覧が郵送されている場合でも、年末の明細は確定申告に間に合わないという致命的な欠陥がございますので、必ず領収書はまとめてお持ちになって頂きたいのでございます。
しかしながら、これがなかなか揃わないのが現実でございます。
揃っていても、医療費控除の申告に必要な計算を代行する事のまぁ多い事……。
会場によってはずっと立ちっぱなしになってしまう事、ご本人の責任で計算する事を強いられる事もあるかと思います。
計算を代行するにしても、複数個所の補助を兼務しておりますと、お一人の計算ばかりも出来ず、これまた心苦しい限り。
ですから皆さま、叶うならば、年末年始にはご両親に“確定申告するのかい?”とお尋ね下さいませ。
そして、最低限必要な“源泉徴収票(全部)”と“病院の領収書”は大丈夫かと、少しばかりの心配りをして頂ければありがいのでございます。
もし、現物を確認出来るなら、病院の領収書を確かめつつ、体は相変わらずか、とか、かかった病院から、悪い所が増えていないか、とか、少しだけ確かめて差し上げて下さい。
とはいえ、いざ確かめてみますと、あれがない、これがないと、ないないづくしで苛立つ事もあるかと存じます。
しかし、そこで慌てたり怒ったりする必要は有りません。年金の源泉徴収票は、給付元に再発行を申請する事が出来ます。もう一度送って貰えるからと、受け流して手続きをしてしまいましょう。
三年前の源泉徴収票を再発行してもらってご来場される事だって珍しくはないのです。
更に、病院の領収書が揃っていない時も、有る分だけで申告しようとお伝え下さい。
確かに、数が減ればその分還付も目減りします。ですが、発行された領収書を全て申告する必要は有りません。義務ではないのです。
また、全部が揃っていないのであれば、失くさない様に、ご自宅の中に“一年分放り込む箱”を準備して貰いましょう。そして、年に一度で構いませんので、親孝行と思い、整理を手伝って差し上げましょう。
その他にも、株式運用や不動産運用でまだまだ収入のある方は、そちらの申告も必要になりますので、もし、ご家族、特に高齢のご両親が株式をお持ちの場合は、配当金の証明書や特定口座の明細が準備できる様に、少しばかり気にかけて差し上げて下さい。
また、ご自分で積み立てされた個人年金の証明書もお持ちいただかなければなりません。ただし、その時には“お支払いになった保険料”の分は収入から除外されますので、多くの場合払う税金は掛りません。むしろ、申告して頂ければそうなるのです。
確定申告はお金の絡む事ですので、直接話をするのは気まずいかと存じます。
しかし、医療費控除の準備はすなわち親御様の健康に直結した話題でございますので、それを気にかける事もまたひとつ親孝行ではないでしょうか。
そして……その親孝行は、その先々にある確定申告の折り、あなたさまは顔を見る事も無い誰かの仕事を助ける事になるのです。
何より、親孝行が出来るのは、子供である“あなた”ただ一人だけでございます。
せっかくなので、ちょっとお話読んで頂けませんでしょうか。
さてさて、わたくしが経験したアルバイトというのがですね、確定申告会場の入力補助でございます。
平たく言って、確定申告をする、主にお年寄りやお身体の不自由な方に代わって、各種の入力事項をパソコンに打ち込むお仕事です。
その他にも、お持ちになった各種証明書の原本や複製を指定の台紙に貼りつけたり、不備がある場合は必要な書類をご案内して一旦お引き取り願うなど、会場内の諸業務のお手伝いをするお仕事でした。
これでも雇用期間中は国家公務員と同じ立場をお借りしておりましたし、どなたが来られたなどという事は雇用期間満了後も守秘義務がございますので、そこら辺の事はお話出来ません。
しかしながら、会場内をざっと見ておりますと、まぁ幾つかの傾向がございましたので、少々お話させて頂きたく思います。
まず、わたくしが居りましたのは、随分と田舎の会場でしたので、ご高齢の方が大変多ございました。
一方、雨後の筍よろしく、お年寄りが手放した田んぼの跡地に新築住宅が次々完成しておりますので、マイホームを実現された若い方もちらほらと居られました。
さて、多くがご高齢の方でございますが、やはり歳をとると医療費がかさむ物でございます。必要な分だけでも、医療費控除の対象になる目安、十万円を超えるのは珍しくありませんし、ご夫婦ともなればなおの事。
返ってくるなら、ちょっと頑張って確定申告してみよう、と、来場される分にはまだまだお元気に見えますが、ここでひとつ問題が。
皆さん、理解しておられないのですよ、仕組みを……。
いえいえ、悪いのは周知していないお上の方でございます。
わたくしとて働いて初めて理解した事がごまんとございますし、働いていてもなお理解しきれないままの部分も大変に多くございました。
とにかく、あまりに頭のいい人達が考えてくれたおかげで、一般庶民には理解しがたいのが税制。しかしながら、あまりにも不備だらけで来場されてしまいますと、お引き取り願わねばなりません。これはなかなかに心苦しくございます。
ですから、是非ともこれをお読みになった皆さんに、離れて暮らす親御様が居られましたなら、ちょっとした親孝行をして頂ければ幸いに思うのでございます。
まず、確定申告にはどんなものであれ“源泉徴収票”をお持ちになって頂きたいのでございます。
複数個所にお勤めの方は全てのお勤め先の物、年金をお受け取りの方で、厚生年金や企業年金など複数個所からお受け取りの場合、その全ての物をお持ち頂かねばなりません。
次に、よくある医療費控除に必要なのは、病院から発行された領収書の類でございます。
医療費の一覧が郵送されている場合でも、年末の明細は確定申告に間に合わないという致命的な欠陥がございますので、必ず領収書はまとめてお持ちになって頂きたいのでございます。
しかしながら、これがなかなか揃わないのが現実でございます。
揃っていても、医療費控除の申告に必要な計算を代行する事のまぁ多い事……。
会場によってはずっと立ちっぱなしになってしまう事、ご本人の責任で計算する事を強いられる事もあるかと思います。
計算を代行するにしても、複数個所の補助を兼務しておりますと、お一人の計算ばかりも出来ず、これまた心苦しい限り。
ですから皆さま、叶うならば、年末年始にはご両親に“確定申告するのかい?”とお尋ね下さいませ。
そして、最低限必要な“源泉徴収票(全部)”と“病院の領収書”は大丈夫かと、少しばかりの心配りをして頂ければありがいのでございます。
もし、現物を確認出来るなら、病院の領収書を確かめつつ、体は相変わらずか、とか、かかった病院から、悪い所が増えていないか、とか、少しだけ確かめて差し上げて下さい。
とはいえ、いざ確かめてみますと、あれがない、これがないと、ないないづくしで苛立つ事もあるかと存じます。
しかし、そこで慌てたり怒ったりする必要は有りません。年金の源泉徴収票は、給付元に再発行を申請する事が出来ます。もう一度送って貰えるからと、受け流して手続きをしてしまいましょう。
三年前の源泉徴収票を再発行してもらってご来場される事だって珍しくはないのです。
更に、病院の領収書が揃っていない時も、有る分だけで申告しようとお伝え下さい。
確かに、数が減ればその分還付も目減りします。ですが、発行された領収書を全て申告する必要は有りません。義務ではないのです。
また、全部が揃っていないのであれば、失くさない様に、ご自宅の中に“一年分放り込む箱”を準備して貰いましょう。そして、年に一度で構いませんので、親孝行と思い、整理を手伝って差し上げましょう。
その他にも、株式運用や不動産運用でまだまだ収入のある方は、そちらの申告も必要になりますので、もし、ご家族、特に高齢のご両親が株式をお持ちの場合は、配当金の証明書や特定口座の明細が準備できる様に、少しばかり気にかけて差し上げて下さい。
また、ご自分で積み立てされた個人年金の証明書もお持ちいただかなければなりません。ただし、その時には“お支払いになった保険料”の分は収入から除外されますので、多くの場合払う税金は掛りません。むしろ、申告して頂ければそうなるのです。
確定申告はお金の絡む事ですので、直接話をするのは気まずいかと存じます。
しかし、医療費控除の準備はすなわち親御様の健康に直結した話題でございますので、それを気にかける事もまたひとつ親孝行ではないでしょうか。
そして……その親孝行は、その先々にある確定申告の折り、あなたさまは顔を見る事も無い誰かの仕事を助ける事になるのです。
何より、親孝行が出来るのは、子供である“あなた”ただ一人だけでございます。