第1話

文字数 2,097文字

 はじめに、パワーハラスメントは選手の心身を破壊する許されない行為であり、五輪精神に反する時代錯誤甚だしい問題です。厳重な処分が下されるべきで、今回の問題で、加害者に擁護の余地は一切ございません。

 ――じゃあ、何を語るの?

 全日本テコンドー協会の選手ボイコットといい、女子柔道強化選手による暴力問題といい、レスリング某監督といい〝何故、武道はパワハラ問題が多いの?〟ということです。

 そもそも空手道にしろ、柔道にしろ、テコンドーにしろ、レスリングにしろ、テニスやサッカーのような純競技ではありません。

 元々が〝戦争に勝つため編み出された、如何に人を効率よく破壊するか研究に研究を重ねた技術〟であり、現在上記した全て、どこかの国で軍隊・自衛隊、警察官が履修する内容となっております。

 しかし戦時中ならまだしも、泰平の世で殺傷目的の武術が盛んになどなりません。逮捕されちゃいます。そこで武術も時代に応じ淘汰されぬよう、様々な変化をしていく必要がありました。

 彼の宮本武蔵著:五輪の書を参照するなれば、【世の中に `兵法の道をならひても実の時の役にはたつまじき `と思ふ心あるべし `其儀に於ては何時にても役に立やうに稽古し万事に至り役に立様に教る事是兵法の実の道也】

 ――超ざっくり翻訳『「今時武芸なんてやっても何の役にもたたないよね~。」って言うやつもいるけれど、いざ役に立つように修行するのが、本物の武芸であり『道』ではないか。』

 というものです。もはや400年前の著作ですが、斯くも武芸・武術とは平和になったり戦乱になったりと忙しい世の流れに対して、柔軟に変化し対応することが求められてきました。

 現代において、空手・柔道・テコンドー・レスリングは流派によって異なりますが多くはスポーツ化の道へ、合気道・少林寺拳法・古武術は護身術へ存続の道を歩んでおります。

 では、一応平和な今日の日本で武道を習う理由とは何でしょう?

 格闘家になってリングに立ち億万長者になりたいという人も稀にいますが、【護身術】でしょうか?【弱い自分を―心身問わず―強くしたい】でしょうか?ここには書ききれないほど多岐にわたると筆者は勝手に考えます。

 〝もういじめられないようにテニスを始めよう〟だとか〝喧嘩に負けないようバスケットボールを始めよう〟なんて人間は少数でしょう。かといって〝喧嘩に負けたくないから武道を始める〟人が全てではありません。

 〝武術〟と〝競技(スポーツ)〟。

 どちらも『勝ち負けを競う』ものですが、〝武術〟を〝スポーツ〟にするのは大変です。

 空手の試合で目潰し・抜き手での気道抉り・一本拳による人中討ちなんて出来ません。柔道でいちいち首挫きや締め落とし・肩車して首からぶん投げを実践していたり、テコンドーで股間蹴り・後頭部への踵落としや下段蹴りを認めていたら門下生が次の日には半分以上病院かお墓の中です。

 枚挙に暇がないほど〝武術〟が〝スポーツ〟になるためには、削らなければならない技術が大量にあります。

 そんな訳で、〝武術競技〟というのは、時代の変化によって生まれた【武術を後世へ伝承させるための方便の一手段】でしかなく、他のスポーツとは成り立ちから異なるのです。

 それ故、同じ武術・武道を学ぶ者でも、目指している方向が全く違ったりいたします。でなければ、こんなに空手や柔術に多数の流派が存在するわけありません。

 〝スポーツ感覚でやってます〟という人もいれば、〝喧嘩に負けないためやっている〟人もいれば、〝いじめられないようにやっている〟人もいれば、〝心身の鍛錬のためやっている〟人もいれば〝健康のためにやっている〟人もいれば、〝この素晴らしい武術を後世に伝承させるため〟にやっている人もいます。

 こういった【価値観の違い】が〝武術競技〟界でハラスメント問題が絶えない理由ではないかと愚考いたします。

 また、〝武術〟と〝スポーツ〟の違いは先ほど持論を述べさせていただきましたが、他に異なる点を挙げるならば〝常識との乖離性〟でしょう。

 「ボールの気持ちになれ!」といって選手をバットでフルスイングする野球監督は居りません。

 しかし空手を例にすれば、男子重量級の黒帯が放つ回し蹴りはバットのフルスイングに匹敵する威力(衝撃が1tを軽く超えます)で、そんな人間凶器が跳梁跋扈する世界です。

 んなイカれた世界で長年生きていると、人間とは感覚がバカになってしまいます。

 竹刀で目を突いた阿呆を擁護するつもりません。空手をしっかりオリンピックのスポーツにした以上、そんな悪しき風習は排他すべき立場に居たはずです。

 しかしながら、今後も〝武術競技〟でハラスメント問題が解消される見込みは少ないでしょう。それは古い頭でっかちのおっさんが多いからではありません。〝武術〟が完全にスポーツとなり切れない以上、【価値観の違い】は付きまとうでしょうし、無くすことの出来ない構造上の問題があるのです。

 皆様、武術を習うときは見学をしっかりして、なりたい・目指したい自分像と〝習う理由〟を明確にしてジム・道場を決めましょう。
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