第1話

文字数 1,054文字

人間は他人を真似ていくことで、学習・成長していく。
伝統工芸やとび職のような職人さんなど、いわゆるOJT(On-The-Job Training)ではなく、師匠や先輩の姿を見て真似ることで必要な技術を身につけていく。

中学・高校とサッカー部に所属していた。
進級・進学を経るにつれ、社会というものの広さを経験していく。
社会の広さを感じたことの一つとして、部活における掛け声や返事が思い浮かぶ。

部活でのランニング中の掛け声。
「〇〇中~、ぜっ! おい! ぜっ! おい! サッカー~ぜっ! お~い」
(基本的に一人ずつ順番に音頭をとるように発声していき、「おい!」の部分は部員全員で言う)

新入生が入部して初めてランニングをする際、掛け声のことなど先輩たちは何も教えてくれない。
一体なんて言っているんだろうとよーく耳を澄ましながら走り、先輩たちを真似ていくことで掛け声のスキルを身につけていく。

先輩「おい!一年! 声でてねーぞ!」
先輩方の叱咤がとぶが、何も教えてくれない先輩は少しも悪くない――これが社会というものだ。
独特のリズムや何故か異様に低音ボイスの掛け声、隣を走る同級生に「ねえ。これって、何て言ってるの?」なんて確認している暇はない(→先輩にどやされる)。
「学ぶ」という言葉の語源が「真似ぶ」と言われているように、見て学んでいくのだ。

高校のサッカー部に入ると、またも社会の広さを学ぶことになる。
「おぃし! おぃし! おぃしっ! おぃしっっ!!」
コーチやキャプテンが話した後の返事だが、何と言っているのか全くわからない。
まさにスクラップ&ビルド――中学3年間でせっかく学んだ掛け声、あれは自分の中学校独自のものだったことを知り、またゼロから先輩たちを見て真似していかなければならない。

「お願いしゃるぅっっすっ!」
「おぃし! おぃし! おぃしっ! おぃしっっ!!」
「おつかれっっしたぁ!」
「失礼しまぁぁぁす!」
高校の部活を通して、みごと私はかつて先輩たちが言っていたのと同じ掛け声を学ぶことができた。

高校を卒業して、より広い社会へと進んでいくことで、学ぶことも増えていく。
大学入学、アルバイト初日、その後も私はスクラップ&ビルドを繰り返していくことになる。
でも、部活において謎の掛け声や返事を身につけたことが、別に無駄だとは思っていない。
(あれ、いや・・・無駄だったのか? 断定はできないかもしれないが)

人間は他人を真似ていくことで、学習・成長していく。
色々な真似を組み合わせていくことで、私は学習・成長していきたい。
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