第1話

文字数 1,739文字

 怖いもの見たさという欲求に勝てず ごく稀にホラー映画を観ることがある。でもやはり怖いから二倍速の速さで観る。二倍速再生なら音もないので驚かされることもないし、あのホラー特有の出るぞ、出るぞ、という緊迫感の演出もかなり薄れる。ただ欠点があって内容がまったく入ってこない。ITのリメイク版もWOWOWで放送していたものを二倍速で観たので陽気に踊るピエロという印象しかない。ちなみにペニーワイズは昔の容姿の方がより怖いと思う。

 早送りが出来ないという理由でホラー映画もスプラッタ映画も基本的に映画館で観ることはない。映画館では逃げ場がないからだ。目を閉じれば映像は観なくていいけれど 耳まで塞ぐのは流石に気恥ずかしいし、何のために映画代を払ったのか意味がわからなくなる。夜中にトイレに行けなくなる可能性もあるので ホラーは友達に誘われても観ない。
 
 それと同じ理由でお化け屋敷もある時まで苦手だった。友達数人と遊園地に行った時もお化け屋敷に入るのを強く拒むと馬鹿にされるので 渋々、入っていたのだけれど 隊列の真ん中を自然と陣取るように心がけていた。ドラクエ3で例えるなら勇者か僧侶ポジションと言えば分りやすいだろう。

数年前に空前の絶叫マシンブームが自分の中で起きた。とりあえず絶叫マシンに乗りたくて仕方が無かったのだ。けれど関西の遊園地はある時期にバタバタと閉園していき、気軽にジェットコースターにも乗れない環境になった。USJにはまあ割と楽しいジェットコースターもあったけれど 年間パスを買っていない僕にとっては気軽にそれだけを乗りに行くことも出来なかったし、来場者も多いので待ち時間が長いのも考えものだった。関西にはまだひらかたパークという最後の砦があるにはあるけれど 正直、絶叫出来るかといえば うーん…、という感じだ。こうなったら少し遠征してみようという話になってナガシマスパーランドにまず足を延ばした。西のナガスパというだけあってスチールドラゴンは噂に違わぬくらい面白かった。ホワイトサイクロンがメンテナンス中で乗れなかったのは残念だったけれど でも遠征した甲斐はあったと思う。こうなると断然、東の富士急にも行ってみたくなる。仲の良い友人岡野くん兄妹と三人で富士急に遊びに行った。

僕は純粋に絶叫マシンを楽しむために富士急に来たのだ。しかし、友人岡野くんは目敏くあの場所を発見してしまった。戦慄迷宮というその長さと怖さが話題のお化け屋敷だ。僕はやんわりと反対をした。戦慄迷宮はお化け屋敷だけれど入場するのに長蛇の列が出来る人気アトラクションだ。そこに並ぶくらいなら絶叫マシンに並ぶべきではないかという説得も試みた。しかし、岡野兄妹の説得には至らず、折角来たのだから、という理由で押し切られた。こうなれば僕の取るべき道は一つだ。いつものように真ん中を陣取れば良いだけだ。紳士ならば岡野くんの妹を真ん中にするべきだろうが形振りなどかまっていられない。いつオバケに襲われるか分からない緊張感の中、事件は起きた。最初のオバケをやり過ごした後、振り返った僕の背後から奇声が聞こえたのだ。そして駆け抜ける人影。その正体は岡野くんだった。信じられないことに彼はオバケにビビッている僕に追い打ちをかけるように自らも驚かせ役にまわったのだ。その時、後にも先にも初めて彼を怒った。しかしそれをきっかけに僕はお化け屋敷が全く怖くなくなってしまった。攻略法みたいなものを自分の中で確立してしまったからだ。

その事件から数年経って 僕はまた岡野くんと共通の知人と三人で性懲りも無くお化け屋敷に遊びに行った。ひらかたパークで行われていた夏のイベントだった。着ぐるみのウサギが出てくる話だったと思う。そこで僕は衝撃に事実を知った。そのお化け屋敷イベントは心拍数を計る装置を付けて進むので 最後にどれだけ自分がビビったのか分かる仕掛けにもなっていた。その結果、岡野くんが飛びぬけてビビッていることが判明したのだ。聞くと岡野くんはお化け屋敷が大の苦手だ、と白状した。

それなら数年前、わざわざ戦慄迷宮に入る必要なかったやん…、僕は苦笑いをするしかなかった。恐怖って意外と身近なところに存在するものなのですね…。
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